HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

小林研さん『傘寿記念演奏会』

 表記の演奏会は、もともと一年前の2020年4月7日に開催される筈だったものです。

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 しかし丁度その日に第一回目の緊急事態宣言が東京他に発出されたため、公演が中止(その後延期決定)されたものです。一年伸ばされていたのです。可哀そうなのは傘寿をその年齢の年に祝って貰えなかった指揮者でしょう。でも年は一歳増えても、今回は第二回目の緊急事態宣言が解除されたあとで、東京の新規感染者数は増加傾向にあるものの、どう言う訳か思ったほどの急増カーヴは描いていないので、記念コンサートが催行出来るのは演奏者にとっても聴く方にとっても大変ラッキーです。感染リスクが急拡大しないうちに(何事?も)早く済ませてしまいましょう。ついでながら、オリンピック開催予定の7月23日にはコロナ状況はどうなっているのか、非常に気になりますね。感染増加がそこそこに抑えられていれば良いのですが、もし急増の中で開催を強行し、オリンピック閉会後に惨憺たるコロナ禍に見舞われていたら、内閣が吹っ飛ぶでしょう。

 さて今回のオープニングで演奏されるのはチャイコフスキーのシンフォニー2曲です。発表されたプログラムを以下に示します。

【日時】2021.4.7.19:00~

【会場】サントリーホール

【指揮者】傘寿(+1) 小林研一郎

【管弦楽】日本フィルハーモニ交響楽団

【曲目】 

 ①チャイコフスキー『交響曲第1番ト短調Op.13<冬の日の幻想>』

 

 ②チャイコフスキー『交響曲第4番ヘ短調Op.36』

 

【概要】二つの曲の概要はネット情報によれば次の様なものです。  

①交響曲第1番ト短調『冬の日の幻想』

 チャイコフスキーが発表した最初の交響曲で、1866年3月から6月にかけて作曲された。チャイコフスキーの交響曲は、番号付きのものが6曲、『マンフレッド』を含めると7曲あるが、演奏機会が多いのは第4番以降のものである。第1番は、初期の3曲のなかでは、親しみやすい曲想と魅力的な旋律で比較的よく知られる。標題の「冬の日の幻想」は第1楽章に付けられたものに由来しているが、『マンフレッド』を除いて、チャイコフスキー自身が交響曲に標題もしくは副題を付けた例には他に第6番『悲愴』があるだけ。このほか、第2楽章にも標題が付されている。演奏時間約43分。

 

②交響曲第4番ヘ短調Op.36
チャイコフスキーは7曲の交響曲(マンフレッド交響曲を含めて)を書いている。その中でも特によく演奏されるのが第4~6番の3曲です。この第4番は,標題音楽的なストーリーを感じさせながらも純粋な交響曲の形式の中に暗く激しい情熱が込められている作品で、チャイコフスキーが交響曲作曲家としての真価を決定した名曲と言える。

1877年にヴェネツアを訪れたチャイコフスキーは、当地の風光明媚なスキャヴォーニ河岸にあるホテル・ボー・リヴァージュにてこの曲を書き上げた。ホテルの壁面には「ロシアの偉大な作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが、1877年12月2日から16日まで滞在し、ここで4番目の交響曲を作曲した」と彫られた碑文が掲げられている。この時期には、富豪のメック夫人がパトロンになったことにより、経済的な余裕が生まれました。これによってチャイコフスキーは作曲に専念できるようになり、これが本作のような大作を創作する下地となった。このことに対する感謝の意を表して、本作はメック夫人に捧げられ、曲には「わが親愛なる友に」という献辞が書いてある。
 美しいメロディに溢れ、最後に大きく盛り上がる起伏の大きな交響曲として楽しむことのできる作品となっており、彼の交響曲の中でももっとも盛り上がる曲の一つである。演奏時間約40分前後。

 

【管弦の規模】

①今回は、二管編成、弦楽五部14型の本格大型編成でしたが、チェロが10台、コントラバスが8台と低音弦楽も揃っていました。

フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、テューバ 1、ティンパニシンバル大太鼓

 

 

②殆ど①と同じ。二管編成弦楽五部14型 。

ただし、ピッコロとトライアルが入りました。

 

【演奏の模様】

    会場の大ホールに入るとステージの周囲はグルリと綺麗な花鉢で取り囲まれ、パイプオルガンの両端には大きな赤い垂れ幕が下がっていました。傘寿記念のことが書いてある。将に祝祭的雰囲気に満ちています。観客席を俯瞰すると、各階、チラホラ空席は有りましたが、感じとしては、7~8割入った状態に見えました。登壇したコバケンさんは、マスクを着用し、外すのかなと思っていたら、最後まで付けたまま指揮しました。オケ団員では、一人していた様な気がします。演奏の様子は次の様でした。

 

①交響曲第1番

第一楽章「冬の旅の夢想」

 Flのテーマとも言える響きからスタート、弦のアンサンブルも透明感があって必ずしも暗いロシアの冬を連想はしませんですね。低音弦のジャッジャッジャッジャという音が蒸気機関車の推進を連想させ、旅しているとしたら雪景色を車窓から見ながら長距離鉄道に乗り、時々管楽器が鳴らす調べは、来るべき春の日の待ちどおしい何か(恋人かも知れないし期待出来る慶事か新しい生活かも知れない)を思い起こさせます。然しジャジャジャッジャのアンサンブルが次第に音程が上がるとやや不安もこみ上げてきますが終盤、Flが冒頭の調べを繰返すとその幻想も泡の様に頭から、視界から消え失せてしまう様な幻想かな?自分として想われるのは。

 

 

第二楽章「陰気な土地、霧の土地」

 弦のゆったりした調べからも、管(主として音の目立つFl&Ob)の演奏音からも、標題の様な陰気さ、霧がかった視界の無さは全然感じられません、僕には。とても落ち着いたいい雰囲気の楽章だと思いました。特に第1Obのソロの見事な演奏、音質といい表現といい相当の達人と見ました。その後途中でハープの様な音がしたので、良く見たらVcのたてるピッツイカートの音でした。暖房の効いた部屋でとても素晴らしく気持ちの良い温かさの中、まどろむような感じさえ受けました。Hrの演奏がやや安定していなかったきらいが有りました。それにしてもFlが随分と活躍します。第1Fl奏者の演奏はベテランの上手な演奏でしたね。

 

第三楽章

 軽快なおどけた様な速いテンポで音が飛び交い、途中からゆったりしたメロディに変わり如何にもチャイコフスキーの調べ、バレー音楽の何処か、いや室内楽かどこかで聴いた様な調べといった感じの箇所がありました。最終部ではTimpのダダーンダダンダンダンと小気味いい位の打音が響き、アンサンブルはVn⇒Fg⇒Fl+Obへと繋がれて、最後は管弦のジャンジャンで潔く終章になりました。曲相を変化させる時、チャイコフスキーはFlを多用するように思えます。

 ここまで、コバケンさんは炎の指揮というより、時折膝を折って体を低くし、どちらかというと淡々とタクトを振っていた様に思う。枯れた指揮に見えましたけれど、どうでしょう?

 

第四楽章

 Fgの先導でFl⇒Ob⇒Vnとつながる主題は、調べるとロシア民謡から取ったメロディで、何と1861年の曖昧な農奴解放(御用改革)に反対する学生たちの(軍人や市民にも広がりをみせる)運動で歌われたものを、チャイコフスキーは最終章に取り入れたというのです。歌の歌詞までは分からなかったのですが、確かにその年の学生運動は、1960年代終盤の日本の学生運動よりも過激になって行き、最終的には反帝政の運動へと発展、ロシア革命へとつながって行くという影響の大きかった民謡らしいのです。チャイコフスキーは一体どのような思いで自曲に取り入れたのでしょうか?少し暗いけれど洗練された少しジーンと心に響く調べ、それがオケパートが次にはかなりフーガに似た次々と異種楽器が強奏する盛り上がりを見せ、終盤には5番を思わせる様なアンサンブルの大咆哮があり、最後は全オケで、如何にも曲の最後が間近かですよと言わんばかり力一杯の演奏で終わりました。

《20分の休憩》

 

②交響曲第4番

 第一楽章

 冒頭印象深いホルンによるファンファーレが高らかに鳴らされ、前半の演奏とは打って変わって4台のHrの音は一致合体して一つとなって響きました。管の響きはHr⇒Trp⇒Fgと引き継がれ、Fgは何とも言えないやや暗いがシックで、切ない調べを静かに奏で始めました。Fgの音って地味だけれどよく聞くと、柔らかいやさしさに満ちた、安心出来る音ですね。神経が落ち着きます。さらにそれに続く弦のメロディの素敵なこと!Fl、Fg、Clが続くとVnのダイナミックな動きが次第に活発になって強奏となるのですが、それを何回か繰り返す弦のダイナミックな響き、そのアンサンブルがまた良かった。時々響くFl,Fgなどと弦とのやり取りが面白い、会話しているのでしょうか?こうした弦の力強いアンサンブルのさ中に「ちょっと待った!」とばかり突然に割り込むTrpのファンファーレ、Hrが続きます。その後もこのファンファーレが何回か出て来ましたが、Trpは卒ない演奏でしたが、Hrのアンサンブルがいま一つすっきりしないものがありました。最後の弦アンサンブルは力強さは有りましたが、強奏の時の弦と管の響きの一体感というか溶融度合いというか、何かもう一つ純化したアンサンブルが欲しい気がしました。昨年11月に来日公演したウィーンフィルなどはそこが違っていました。一昨年の来日公演も聴きましたが、何故こうも響きが違うのか?その秘密は分からないままです。勿論今回のチャイコフスキーの曲ではなかったのですが(私は聴いていないけれども、大分以前の来日公演の時ゲルギエフ指揮で4番をウィーンフィルが演奏したことがあった様です)。

第二楽章 

 オーボエが哀愁を帯びたメロディを切々と奏でます。Ob.奏者は1番の二楽章でも感じた“名手の響き”をあの細い吹き口1本で会場一杯に広げていた。次いでそれを引き継ぐ低音弦の音がObとは対照的にメロディを落ち着いて繰り出しましたが、この弦のアンサンブルがまた実に良く聞こえました。                  この楽章は決して明るくはないけれど左程の暗さは感じなくて、静けさからダイナミックな動きもあり、チャイコフスキーの旋律が満喫出来た、かなり気にいった演奏でした。

第三楽章、                             

 冒頭から全弦で速いテンポのピツィカートで始まり、最初から最後までピツィカートでの演奏でした。この類の曲では、ヨハン・シュトラウス2世の『ピツィカート・ポルカ』が有名で、以前はウィーンフィルのニューイアーコンサートでも良く演奏されていたのですが、最近(ここ10年程)は演奏されませんね。今年のムーティ指揮の時も有りませんでした。ムーティと言えば、東京の「春音楽祭」で来日演奏のプログラムが組まれていましたが、中々チケットが発売されないので、例によってコロナ出国規制で来日出来ないのかな?公演中止かな?と思っていたら、急遽来日可能となり、チケットも急ぎ販売されたのでした。何とか取れた公演も有りましたけれど、忙しなくて疲れます。                      この楽章の後半でObが鳴りだすとピツィは突然休止し、続いてFl+CL+Fgの後、初めてピッコロが甲高い音で歌い出しました。風が吹いて木々が騒めいているが如きピィツィの音を鎮めるかの様な小鳥の鳴き声といったところでしょうか?

第四楽章

 前楽章の最後、ピツィと管の競い合いが静かに閉じられた途端に、アタッカでジャーンジャーンジャーンジャーンと全オケの強い音が鳴り響きました。特にシンバル、大太鼓等打楽器群の音が目立つ。弦は速い軽快なアンサンブルを全力で弾き出し、途中ブラスの響きはチューバのずっしりとした音も交え弦と一体となって強奏していました。これは将にバレー音楽の一節を聴いている様な錯覚を覚えた。終盤になると第一楽章で出て来たホルンのファンファーレが再び鳴り響き、一瞬鳴りを静めた後、Timpが静かにトントントントンと伴奏する中、くるみ割人形のメロディとリズムに似た調べが繰り出され次第に強奏されると、この章の冒頭の大合奏の叫びが再び咆哮して最後は如何にも大仕事を終えることが明瞭なオケの動きと指揮者の大振りで遂に終焉したのでした。館内の大きな拍手。後部座席では「ブラボー」の横幕を掲げる人もいました。                      この4番のシンフォニーではファゴットをかなり多用していましたね。勿論 FlやOb もちょくちょく顔を出しますが、欲を言えば、ホルンの活躍する場面が多いのですから、アンサンブルが揃った堂々とした響きをして、誰の目にも文句なく大活躍だったと思われる演奏が欲しかったと思いました。     

 全体的にはチャイコフスキーたる所以の、独自の様々なオーケストレーションが、満喫出来た演奏会でした。個人的には4番の第二楽章が好きですね。           

 指揮者は傘寿ですから相当疲れた筈ですが、鳴りやまぬ拍手に応じ、ちょこちょこと身軽に何回も出て来て、丁寧に四面の客席それぞれに挨拶していました。また楽団員に楽器グループ毎に挨拶をして貰い、最後にはマイクを握って、今日はコロナ禍で大変な中来ていただき感無量であることと、そういうことはもう無いと思うけれど、卒寿の演奏が若し出来れば、その時はまたどうぞ宜しくお願いしますといった趣旨の話をしていました。さらにこういうご時世なので、特にアンコール曲は用意していなかったけれども、皆さんの声援に答えて4番の最後の箇所をもう一度演奏したいのですが、オケの皆さん宜しいですかと同意を求めてから、第四楽章の終焉部をアンコール演奏しました。