表記の演奏会は、13名の弦楽器奏者から成るアンサンブルで、そのH.P.によれば、次の様な特徴を有している様です。
アンサンブル MPは、美しく豊かな音色を持つ弦楽器の特色を生かし、
素敵な音楽を純粋に楽しみたいという思いから生まれた弦楽合奏団です。
第7回 定期演奏会
【会場】渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
【日時】2021年3月14日(日)19:00~
【演奏】アンサンブルMP
第1Vn:奥山秀俊 小島暁子 髙 麻衣子
第2Vn:石井里衣 柿野聡子(ハイドン第1) 川名美穂 福寿彩夏 南 萌子
Va :庄司昌仁 船曳千冬 森崇政 湯澤万里子
Vc :大坪元 豊田千織 乃村真優子
Cb :山本亜沙子
【ソリスト】 漆原 啓子
【曲目】
①グリーグ/ホルベルク組曲 Op.40
②ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番ハ長調Hob.Ⅶa:1
ヴァイオリン独奏:漆原啓子
③マックス レーガー/抒情的アンダンテ「愛の夢」ニ長調
④ベートーベン/弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」Op.95 弦楽合奏版
【演奏の模様】
この渋谷にあるホールは、今回初めて足を運びました。今までになかったビルの4階に有りました。渋谷では大規模な街改造が行なわれていて、少し見ないうちにどんどん変わっていきます。あれだけビルが増えて需要はあるのでしょうか?採算が取れるのでしょうか?さて演奏の方ですが、
①この曲は聴いていてかなり耳に残る印象の強い曲です。一昨年5月『2019 70th堀正文アニバーサリーコンサート』で聴いたことがあります。参考までその時の記録(抜粋)を文末に再掲(1)しておきます。
今回は弦楽の規模が全然異なるので、その時と比べることは出来ませんが、全五曲聴けたことは良かった。特に最初の第1曲の最後のメロディはこの曲であることを強く主張していたし、最後の第5曲のCbのピッツィカート伴奏で、第1Vnが弾く速いアンサンブルは美しいと思いました。
②このコンチェルトの演奏は圧巻でした。重音の太い重厚な音でスタート、速いパッセージ、ゆっくりした箇所、それらの変化の具合、装飾音のはめ込み、一つの音譜の中での微妙な変化、音から音へ移る時のフッと息の抜き加減、どれ一つとっても高度な技術と弾き慣れた経験の現われ、将に達人技でした。音楽というものはこの様なものです、と聴く者に感動を与える演奏、ホントに素晴らしかった。弦楽五部の伴奏アンサンブルも独奏をよく盛り立てていました。暫く振りで、ヴァイオリン音楽を堪能しました。この曲は割と若い奏者が弾く様ですが、大ベテランの演奏はかくも違って聴こえるか、音楽性が最高の極みに達していると感じました。漆原さんには確か芸大教授をされている妹さんがおられ、その演奏を一昨年の12月に聴きましたので参考まで文末に再掲(2)します。今回演奏された漆原啓子さんの演奏は、上記『2019 70th堀正文アニバーサリーコンサート』で、弦楽八重奏曲(メンデルスゾーン)を奏団の一員として弾かれたのを聞いたことがあるのですが、残念ながらその記録も記憶も残っていません。従って今回初めて聴いた様なものでした。ご姉妹は「ひばり四重奏団」を組まれて演奏活動をされているそうなので、今度機会があったら聴きに行こうと思っています。
尚、この独奏が終わった後、漆原さんはアンコールとしてハイドンの『セレナーデ』を弾きました。伴奏弦はすべてピッツィカートで、良く聞き慣れた調べが会場一杯に流れました。
<20分間の休憩>
③かなり短い曲でしたが、ゆったりとした重奏なアンサンブルは気持ちが落ち着くものでした。
第1Vnがどうしても優勢になりがちで、アンサンブルを引っ張っていましたが、Vcのソロ部では響きがもう少し欲しい気がしました。楽器構成数上仕方ないのかも知れませんが。
④ベートーヴェンにこの様な曲があったのだとは気が付きませんでした。初めて聴きます。
④―1 配布プログラムに記載がある様に、確かにエネルギッシュな曲ですが、何か不安な安定感の少ないと感じる楽章でした。
④―2 Vcが数音立ててスタート、穏やかなメロディの中でVcのアクセントが効いていましたが、何か同じようなメロディが続き退屈な気がしました。
④―3アッタカ的にすぐ速いテンポの激しいメロディが流れ出て、何回か繰り返されましたが、聴く方としては少し疲れを感じる楽章でした。
④―4ここで初めてベートーヴェンらしい調べだと思われるメロディが聞けました。初めからアンサンブルが歌っている、続く速いテンポの軽快な調べは他のベートーヴェンの曲で聞いた様な錯覚がしました。最後は感情が高まって一気に終了。
全体としては曲構成のバランスが余り良くないベートーヴェンらしからぬ曲、ではなかろうかというのが感想でした。聴かせる曲というよりは、弾く面白みのための曲でしょうか?アンサンブルMPの皆さんは、そうした曲に果敢に挑戦されていた。 ベートーヴェンはこの曲後、十年以上も四重奏曲は作らなかったと謂われますが、本当でしょうか。本当だとすると、この曲をベートーヴェン自身が余り気に入っていなかったのでないでしょうか?
尚、アンサンブルの皆さん、チェロ以外は皆立ち通しで演奏していました。また漆原さんはソリストなのですが、①、③、④の曲では第1Vnも受け持って弾いていました。入・退場の様子も気取った権威的な処は全く感じられなく、気さくな方とお見受けしました。
すべての予定曲が終わった後、弦楽アンサンブルのアンコール演奏がありました。グリーグ作曲『二つの悲しい旋律Op34』より「晩春」。聴いていて確かにしんみりと心に滲み込む曲です。
長いコロナ感染の下で、多くの災いを受けて苦しむすべての人々に贈られる挽歌と受け取りました。
この日は昼過ぎに映画を見て、その他の雑用もこなし、夜のこのコンサートはやや無理な気もしたのですが、無理して聴きに来て良かったです。正解でした。
///////《再掲1(抜粋)》///
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2019.5.19.
『堀正文70th Anniversary Concert(@サントリーホール)』
N響コンサートマスターを経て、桐朋音大で指導に携わってきた堀さんの古希を祝い、大学(東京藝大などからも参加している模様)、N響等の一門総力を挙げての記念コンサートの開催となったようです。会場に入ると、ステージの中央前面には花々が飾られ、クラシック関係の案内を得意とし、語り口も上品なフリーアナウンサー(キャスター)の山田美也子さんが司会をするという、華やかな雰囲気の中でコンサートは始まりました。三部構成で、第一部は弦楽中心の演奏、第二部は有数のキャリアと名声を誇る演奏家の登場、第三部でコンチェルトと管弦楽曲の演奏といった、舞台上の楽器構成・楽器交代、音楽会の盛り上がりも考慮した良く練られたプログラムだと思いました。最初の曲は、参加弦楽演奏者全員による①グリーグ「ホルベルグ組曲(第1楽章)」です。今回は全曲でなく曲の一部が演奏されました。何故なら、山田アナの説明にもありましたが、3時から始めても、多くの演奏とインタビューがあるので、一部演奏でさえ終わるのは9時近くなるかも知れないという理由からです。グリーグの曲は先月(4/20)ニコライ・ルガンスキーの演奏でかの有名な「ピアノ協奏曲op16」を聴きましたが、グリーグは「北欧のショパン」と呼ばれた位ですから、ピアノ曲は得意で自らも演奏しました。(4/21付hukkats記事参照)このホルベルグ組曲は元はというとピアノ曲として作曲されたのですが、翌年弦楽合奏用に自ら編曲したものです。グリーグの同郷の先人を偲ぶ祝典用でした。その意味で、冒頭演奏するのに大変相応しい曲です。60人を超える、しかもメンバーの個々のレベルが高い弦の集団が奏でる大アンサンブルは、非常に重厚なものでした。ズシリお腹に響く様だった。
《再掲2》///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
『漆原朝子&今峰由香デュオ・リサイタル』
昨日ヴァイオリンとピアノの演奏を聴いてきました(2019.12/19 19:00~@東京文化会館小ホール)演奏者は、ヴァイオリン漆原朝子、ピアノ今峰由香、演奏曲目は、前半が①ラヴェル作曲『ヴァイオリン・ソナタ遺作』②ドビュッシー作曲『ヴァイオリン・ソナタト短調』③ヤナーチェク作曲『ヴァイオリン・ソナタ変イ短調』です。
休憩を挟んで後半が、④ドヴォルザーク作曲『4つのロマンティックな小品Op.75』
⑤ブラームス作曲『ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調Op.108』でした。即ちフランスの作曲家の曲が二つ、チェコが二つ、そしてドイツ(ウィーン)が一つです。いずれもロマン派か後期ロマン派の曲です。タイトルでは、「デュオ・リサイタル」になっていますが、プログラムを見てみると、事実上のヴァイオリン・リサイタルですね。其れとも、各作曲家がタイトルでは、掲げなかったピアノを多用し、事実上のデュオの曲にしているのでしょうか? 最終曲のブラームスのソナタトがデュオに近いことは、知っていました。今月初めに、マロこと篠崎さんの3番の演奏を聴いたからです。その時、やはりブラームスはピアノを重視していると感じました。その他の曲は、今回が初めてなので、聴いてみないと分かりません。
さて、演奏会場にはいると、ステージにグランピアノが1台置いてありましたが、よく見ると、ピアノには、いつものスタンウエイでなく「Bösendorfer」と書いてありました。わざわざこのピアノを選んだのは何故?
先ず①の演奏は、平易な感じがしました。ベーゼンドルファーは確かに柔らかい音ですが、ややもやもやとした感じ。綺麗な透明感が少ない気がしました。Vn の音も然り、持っている最適技量一杯にまだtuningされてない感じ。立ち上がりでまだエンジンがかからないからか?それとも曲がそういう風に弾く曲だからなのか?この感じは②の第1楽章(以下②の1と略、他も同様)まで続きました。②の1は、何かもの悲しい調べですね。②の3になると相当Vnの音は研ぎ澄まされてきて、VnもPfもアンサンブルが良く纏まりが出てきた感じがしました。それにしても②も③もいい曲ですね。ベートーベンやモーツアルト、等の古典の名曲よりもかなり複雑で演奏も技術的にかなり難しいと思いますが、良い曲にまとまっている。③も2のBalladaの調べは流麗で、旋律は歌にもなりそうな気がしました。②も③もVnが弦を軽く押さえて高音を出すところが結構見られた。ピアノは自己主張しないでVnの音に溶け込んでいましたが、もう少し自己主張すればデュオの曲と言えたかも知れない。④の小品は誠に綺麗な旋律、特に④の1でこんなにいい曲を作れるとはやはドヴォルザークは天才だと感心。もちろんそれを堂々と弾いた漆原さんの技量があってこそですが。ドヴォルザーク④の曲に触れてその素晴らしさを発見出来たのは私にとって大きな収穫でした。
それにしても最後のブラームスは圧巻でした。Pfの音に力強さが有りVnも円熟した奏者の技量のお披露目の様な見事な演奏で、この日一番の歓声と拍手が起こりました。
ブラームスのソナタは篠崎さんが1~3番を弾いたのを聴きました。また10月初めに竹沢恭子さんが1番を弾いたのを聴きました。そして今回漆原さんの3番の演奏。今日の演奏で、この奏者のまじめで純粋で一途な、お人柄が窺えられる様な気がしました。
心を込めて弾いておられました。さすが我が国のVn界を牽引する指導者たる演奏だと思いました。
一方ベーゼンドルファーについては、曲によって、或いは曲の部分によって、合う、合わないがあるのではないでしょうか。やはり切れの良いスタンウエイの透明感の強い音が欲しいと感じた個所もありました。
さて観衆の声援に答えてお二方は舞台に戻られ、アンコールを二曲演奏しました。
⑥フォーレ作曲『ロマンス』⑦ドヴォルザーク作曲の歌曲をクライスラー編曲『我が母の教え給いし歌』。何れも素敵な曲を最高の演奏で聴かせて頂きました。Merci Beacoup!