- 今年も残すところあと1週間になりましたが、今日は12月24日、
- クリスマスイヴです。コロナ感染がどんどん広がっている現状では、相当の覚悟がなければライヴの音楽会に足を運ぶことは出来ません。勿論中止になってしまったコンサートもあり、クリスマスは配信を聴くことで、楽しむ他ありませんでした。
- バッハ作曲『クリスマス・オラトリオ』を聴きたいと思って調べ、配信がいくつか見つかったのですが、「LIVE FROM LONDON CHRISTMAS」という有料配信はチケットが完売されてしまっていました。もう一つ、これは国内の無料配信ですが、「東京バッハ合唱団」を中心とした演奏が、ユー・チューブで聴けることが分かり、クリスマスオラトリオの年内分(第1日、第2日、第3日分)+カンタータ1曲の二時間弱を鑑賞してクリスマス気分を味わいました。
- 「クリスマス・オラトリオ」はⅠ部、Ⅱ部、Ⅲ部のあとに、翌年分のⅣ部、Ⅴ部、Ⅵ部が続く、全曲だと3時間にも及ぶ長大な作品ですが、昔から折を見てカールリヒター指揮のミュンヘン・バッハ管弦楽団・合唱団のCD他を聴き親しんできました。2018年11月には、タケミツメモリアルで鈴木雅明指揮・バッハ・コレギウム・ジャパンに依る全曲演奏会があったので聴きに行きました。たっぷりとバッハを堪能出来ました。その時の記録を参考まで、文末に再掲します。
- 今回のプログラムは次の通りです。
- 【配信期間】
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2020.12.19(土)~2021.6.19(土)
- 【開催場所】
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YouTube(ユーチューブ)にて配信
- 【演 奏】
- 管弦楽:ARS(コレギウム・アルモニア・スペリオーレ・ジャパン)
- 合 唱:東京バッハ合唱団
- テノール:平良栄一(福音史家、アリア)
- オルガン:中澤未帆
【指 揮】大村恵美子
【日本語訳】大村恵美子
- 【曲 目】
- ①カンタータ110番《喜び笑いあふれ》BWV110
②クリスマス・オラトリオBWV248よりⅠ部、Ⅱ部、Ⅲ部
【感 想】
①30分近い大曲です。最後の二曲が、バンダのトランペットの調べ、弦と合唱のアンサンブルが最もバッハらしく聴こえ良かった。
②この曲はCDなどで色々な演奏者の録音を聴いていますが、今回はその中でも最も速度のゆっくりした演奏でした(Ⅰ部の終盤になると少し速まり通常の速度でした)。でも冒頭から、打、弦、合唱がとても調和していていて、皆さん相当この曲は何回も弾いておられるなと思いました。
コロナ禍が日本のみならず世界を跳梁・跋扈している中で、多くの音楽会が延期、中止になり、人々が心配や恐怖でおののいていますが、そうした日々、無為に過ごし易くなってしまう恐れを払しょくして、勇気を与えてくれるこうしたタイムリーな曲の音楽配信の試みに、努力された皆さん方には頭が下がります。有難う御座いました。
(参考)//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
《再掲(抜粋)2018.11.23》
その後演奏会の有無を調べたところ、それが年内にあったのです。コレギウム・ジャパンの定期演奏会(鈴木雅明指揮)で演奏する模様。すぐにチケット情報を見たら、1階のS席が一つだけ残っていました。急いでゲットし、勤労感謝の日15時から演奏会に行ってきました(11/23 at タケミツメモリアル)。『クリスマス・オラトリオ(Weihnachts Oratorium以下W.O.と略記)』は何と長い曲なのでしょう。キリストの誕生日から(12/25)から翌日、翌々日演奏用の計35曲及び新年用、新年第一日曜用、1月6日用の計29曲、即ち二つの計を合わせた全64曲のカンタータ(Kantaten)からなる膨大な「キリスト生誕時の物語」を詠った声楽曲です。終演が18時、休憩時間を含めて約3時間の演奏会でした。W.O.は別にキリスト教徒でなくとも純粋に音楽として素晴らしく、聴いて飽きない曲だと思います。そういえば昔i-Podの出始めの頃、全曲入れて毎日毎日通勤電車の中で聴いていた時期もありましたっけ。その後もちょくちょく聴いてかなりのお気に入りになっていたこともあって、曲の全体イメージは頭に入った状態で演奏会に臨みました。冒頭、元気一杯なティンパニーとトランペットの響きに続く弦に誘導されて、合唱が高らかに“Jauchzet,frohlokket(喜びの声をあげて小躍りせよ-hukkats訳)”と歌い上げます。この第1曲には元となったBach自作の曲があって、そのメロディにキリストを生誕させた神を褒めたたえ喜ぶ新しい歌詞を台本作家が付けたのです。冒頭からあの敬虔な祈りの場である教会の音楽とはとても思えない明朗な活き活きとした音楽が流れるのです。それもその筈、元となった曲はKantaten BWV214からの引用で、これは当時、ある王妃の誕生日を祝う祝典用の曲でした。ご存知の方も多いと思いますが、この様な曲を再利用して作曲されたものをParodieと呼び、バッハはW.O.を作曲するにあたりParodieを多用しました。詳細は省きますが、W.O.にはマタイ受難曲(Matthäuspassion)からのParodie(第5曲など)も存在します。Matthäuspassionは素晴らしい曲だと思いますが、キリスト受難の曲ですから全体として明るい曲とは言い難い。吉田秀和さんは「マタイは恐ろしい」と論評しました。しかしW.O.に取り込まれたMatthäuspassionのChoralなどは不思議と明るい色調に染まって、W.O.に溶け込むのです。さて鈴木さんの指揮ですが、スタートの序奏はややゆったりとしたテンポで始まりましたが、第3曲に移っておやこれは!と意外にも、Alt役に女性歌手ではなく男性歌手(Clint van der Linde)を起用したのです。でも良く考えてみれば、バッハの時代はそれが普通だったのでしょうから、出来るだけバッハの曲を忠実に再現したいという主宰者の意欲を感じました。Lindeさんは、Kindersopran出身でCountertenorとして主として古楽の分野に進まれた方の様です。歌い振りは立ち上がりこそ高音がやや上ずって聞こえましたが、40歳台の脂ののった歌手ですので、最後まで女性Alt歌手にはない力強さがありました。(第19曲のAltアリアでは高音がかなり力まないと出しづらいきらいが見えた。)第2曲に戻りますが、ここはTenor(Zachary Wilder)がRezitativ(叙唱)で “Es begab sich aber zu der Zeit,daß ein gebot von Kaiser Augusto ausging daß alle Welt geschätzet würde. (ところがその頃、皇帝アウグスツスより発せられた‘全国民は本籍登録せよ’という勅令が実施され始めた-hukkats訳)”と、処女懐妊したマリアがヨセフ(夫、未だ婚約者?)と連立ってナザレの町からベツレヘムへの移動せざるを得なかった理由を歌います。der Zeit とは、初代ローマ皇帝アウグスツスがローマ帝国領を広げ領土の安定的な統治を目指した紀元前4年頃の時代です。Wilderさんはこれらの説明を粛々と歌いました。全体を通してTenorの独唱が多く(第2,11,15,17,20,25,30,34,37,41,48, 61,62各曲。Altの場合の3,31,32,45,49,52各曲の数を凌駕している。)Wilder Tenorは全体を通して説得力のある歌い振りを発揮した。 ちょっと待った!済みません。
このペースで各パートや64曲それぞれの気付いた細かい点を書いていくと紙数も時間もかなりのものになるので、詳細は省略することにして、特に印象的だった点を要約することにします。次の4点に絞られます。
- W.O.の中でトランペット(以下Tr.と略)とオーボエ(Ob.と略)と太鼓(ティンパニー)の演じる役割は大きいものがあります。Tr.は時として不安定となりミスすることがあった(第8曲でのBassの伴奏は良し)。Ob.は歌手の独唱の伴奏で力を発揮、概ね良く演じた。好感が持てます。太鼓はやや音量不足ではなかったでしょうか。もっと高らかに鳴らしても良かったのでは?
- 歌のパートはSopran(Hana Blazikova)が一番安定して綺麗な声で歌っていたと思います。特に第39曲は清澄な曲で、Sopran(第1,第2)アリアでは神と魂の掛け合いを「Nein(=No)」と「Ya(=Yes)」の返答を求め(第1Sopran)、エコー(第2 Sopran&)が返答する場面です。第2 Sopran役の女性はステージから遠い客席の方に移動してエコーを歌っていました。今手もとに2009年にライプツィッヒのトマス教会でThomaskantor Leipzigの指揮下Thomanerchor Leipzig及びGewandhausorchesterが演奏したW.O.のCD録音があります。ThomaskantorはGeorg Christoph Biller という方(謂わば現代版バッハの地位) Thomanerchor Leipzigはバッハ以来の伝統である少年聖歌隊です(SopranパートはKindersopran)。上記の第1Sopranとエコーの部分は、短い求めとエコー返答を繰返した後、3回続けてNeinとYaYaを求める箇所があるのですが、「Nein((第1Sopran)」⇒Ob.(エコー)⇒第2Sopranの順に三回繰返し、その後で1回目「Ja,Ja(第1Sopran)」⇒Ob.(エコー)⇒第2Sopran(エコー)の順、2回目は「Ja,Ja(第1Sopran)」⇒第2Sopran(エコー)⇒Ob.(エコー)⇒第2Sopran(エコー)の順、3回目は1回目と同じ「Ja,Ja(第1Sopran)」⇒Ob.(エコー)⇒第2Sopran(エコー)の順で表現しています。「YaYa」と返事して下さいと神に求めた時の質問は「Solt ich mich das(Sterben) erfreuen?(喜んで(死を)享受すべきか-hukkats訳)」なので、1回目と2回目の返答ですぐに2Sopran(エコー)が答えずOb.(エコー)の後に答えるようにバッハが作曲したのは、「死を享受」させることに幾ばくかの躊躇いがあったのではないかと個人的には想像したい。それにしても少年の声は女性歌手の様な深みや幅、味はないけれど、澄み切った真直ぐな透過する声で、教会音楽に相応しい新鮮さを醸し出しています。 その他今回の演奏会のアリア等の独奏で良かった(好き?)と思ったのは第4(Alt),第8(Bass),第13(Sopran),第19(Sopran),第34(Tenor鈴木さんがチェンバロ伴奏しながら立ち上がって指揮),第47(Bass) 各曲。
- 楽器演奏は①の他、フルート、弦の独奏もありましたが、やはりが伴奏、独奏ともかなり活躍したと思います。演奏会後半の第36曲からトランペットが退場し(同時に太鼓も退場)代わりにナチュラル(シングル)ホルンⅠ、Ⅱが登場、第36や第42で伴奏していたが、楽器の構造上かどうか音が十分聴こえなく不安定なところもあった。第54曲から再登場したTr.は最終64曲を力を振り絞って吹き切りました。
- しかしW.O.は何といっても合唱が命ですね。今回は独奏者も含めて女性9人男性12人計20人程度の構成でしたが(前述のThomanerchor Leipzigは76人編成)各コラール、合唱とも良くハモっていて、第43曲(かなり速いテンポでしたが)の4声のフーガも軽快に良く表現していた。この曲はとても教会音楽とは思えない出色の明るさ世俗的匂いが芬々と感じられる合唱で大好きな曲の一つです。(BWV213やBWV184aのParodieとみる向きもありますが、触感が異なる。むしろKantaten BWV30の第1合唱曲と同じ感触の曲に分類したい…メロディも歌詞も全く異なるのでParodieではないのですが。
以上、兎に角W.O.全曲を生演奏で聴けた充足感に満ちた気持ちで会場を後にしました。