表記の変わったタイトルの音楽会に行ってきました。
副題に「マルチ・スピーカーによる新しいオーケストラサウンド体験」とあります。何のことは無い砕いて言えば、オーケストラの録音をスピーカーで聴く音楽会です。 但し普通の録音とは違って、何と録音は、オーケストラの演奏者一人一人の発する音をマイクで拾い録音し(人数分以上ののマイクを用意したそうです、というのはピアノには複数のマイクというように)、そして「もとの演奏者の位置(椅子)にスピーカーをそれぞれ並べて、それらの録音した音達を再生し、一つのオーケストラのアンサンブルとしてスピーカーを通して鑑賞する、即ち再生スピーカーがあたかも各演奏者に扮してあたかも演奏者がそこにいるかの如きコンサートの鑑賞方法です。
随分厄介な手の込んだ方法ですね。これもコロナ禍で演奏者や観客の感染対策としてあみ出された手法なのでしょう。
チケットは抽選制、前もって申し込みをし、当選すればチケットを無料で郵送して呉れる仕組みです。人と違って、機械ですから疲れませんので、午前中に一回、午後は三回の公演がありました。そのどれかに申し込むのですが、最後の18:30 の回に申し込んだら当りました。チケットは200枚程だそうです。大ホールは約2000席ですから十分距離を置いた座席での鑑賞が可能です。コロナ感染のリスクは低いと思い、最終回を聴きに行きました。
コンサートの概要は以下の通りです。
【日時】2020.12.9.(水)18:30~
【会場】横浜みなとみらいホール大ホール
【オーケストラ】神奈川フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】川瀬賢太郎
【オーケストラ編成】三管編成弦楽五部10型変形(標準の二管編成で管を増強)
左翼に1Vn、Pf、Hp、Cheres、Hr、右翼にVaCb、Trp、Fag
中央にVc、木管、打、Trb
【曲目】
①J.ウィリアムズ『スター・ウォーズ』メイン・タイトル
②ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」』より
③ビゼー『カルメン』より前奏曲
【演奏の模様】
今回は先ずトークがあり、新井みなとみらいホール館長、田村横浜WEBステージディレクター、ヤマハ(株)奥村氏、エスイーディー(株)高坂氏、飯田司会が登壇しました。
《要旨》
・ウエッブ上のステージ(WEBステージ)では、ドローンの映像や、小さい虫が楽器の中に入り虫の目で見た映像、魚の目を擬した広角レンズの映像などこれまで100コンテンツを作成、u-tube等で流しています。
・今回は方向性は二通りあって、一つは、ホールに行った臨場感。二つ目として、ホールでも体験出来ないもの。
・楽器にあったスピーカー選びが大変だった。ハイレゾルションで96Khzで再生。
・コロナ対策で演奏者の間隔がかなりあいていたので、その空間にマイクを立てられた。
・みなとみらいホールは来年から二年弱回収で休館となるので、その間、今回の方式で「移動みなとみらいホール」が出来ないか検討する。さらに少し規模を小さくして、教育現場等でのコンサートが出来ないかも検討。
①この曲は、もともとブラスの響きが特徴の映画音楽です。このために管楽器が増強されたと考えられます。
何回か再生されたのですが、最初の一回目を聴いた時は、その第一声からして繊細さの無い雑な音が続く感じがしたのですが、これはそうした音に耳がまだ慣れていなかったせいでしょうか。ftも何か違うし、Obのいつもの冴え冴えした音と異なります。弦アンサンブルは清明さが感じられず、大音量のブラスの音にかき消されている感じ。管が休止中の弦のアンサンブルはいつも聞く響きでしたが。
二回目を聴いた時は、不思議と各パートも、アンサンブルも良く聞こえました。耳が、機械音に慣れて来たからなのでしょうか?そう言えば、同じCDを聴いていても部分的に違った様に聞こえる時があって、その時は何か発見した様な気になることがたまにあるのですが、これは、如何に人間の耳は、体の調子や体調に依存しているかを物語っているのではなかろうか極端な言い方だと、恒久的に永遠に同じ感覚ではないのではなかろうかと思われるのです。
②これはもういつも聴いているオーケストらの演奏にかなり近いと思いました。ベートーヴェンの慣れ親しんだ5番の響きでした。文句なしにベートーヴェン!
③シンバルやカスタネットやトライアングルなどの打楽器が弦にの速いリズムに拍子を取っているのですが、その辺りの音は感じ取れるか注目していましたがほぼOKでした。
この間、各パート(左翼のピアノ、ハープ)中央の管楽器、それから弦楽五部ンアンサンブルの部分、部分の演奏を切り出して再生。これは中々いい試みですね。全体しか聞けない生演奏会ではほとんど不可能な音の響きを鑑賞出来ました。(ゲネプロ辺りではパート毎の音を出すこともあるでしょうが)
尚最後に観客(チケットが配られたのは多分200人以下ですね。かなり少ない観客でした。100人もいたかどうか。)が舞台に近づけるコーナーがあり、舞台に昇る事も出来ました。スピーカーの近くや指揮台に昇って再生音を聞くことも出来ました。写真撮影もOK。これは機械だからこそ可能なことでした。
【感想】今回の試みは、コロナ禍だからこそ知恵を出して新たな可能性を見出そうとする主催者の努力の跡が良く理解出来ました。
個人的には非常に発展する可能性を秘めた技術だと思います。
例えば、昔の小規模な無声映画から今日の巨大映画館へと発展した経緯を考えれば、技術的発展が興行的発展を生み出し、興行が成功すれば、さらなる技術の発展を促進して来ました。その相乗効果はコストダウンを導き、今では1000円程度で観賞できる、そしていつでもどこでも観賞できる迫力ある娯楽になったのでした。
今回の「無人オーケストラ」もさらなる幾多の工夫をして行けば、いつでもどこでも安価な料金で、オーケストラ他の演奏とほとんど同じ音を堪能できる演奏館が、ビジネス的に成立する時が来るかも知れない、そういった予感すらする今回の演奏会でした。もちろんこれは、コロナ禍の克服がワクチン投与によっても余り効果が上がらないという、少し悲観的な世界が続くことが前提でしょうけれど。(そうあって欲しくないですね)