HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『神尾真由子ヴァイオリンリサイタルat ミューザ(2020.10.10.)』を聴いてきました。

 今日(10/10土)も台風の影響で、雨、風が強い日となりました。出来れば家でゆっくりしたい気持ちもありましたが、それ以上に、神尾さんの演奏を聴きたい気持ちの方が強かったのです。恐らく彼女の演奏を聴くのは、今年最後でしょう。伴奏は、田村響さん。

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 ここのところ、ヴァイオリン演奏を聴く機会が続き、一昨日は、竹澤恭子さんの演奏を聴いたばかりです。
 神尾さんの演奏はこれまで何回も聴いているのですが、その度にヴァイオリンの音色の素晴らしさに感服しており、また聴きたくなりました。今回の演奏曲目は次の通りで、ほとんどが世間によく知られたものばかりでした。
【曲目】
①ベートーヴェン『ロマンス 第2番 へ長調 op.50』
②ベートーヴェン『ヴァイオリンソナタ第5番「春」 へ長調op.24』
③クライスラー『愛の喜び』
④クライスラー『愛の悲しみ』
⑤クライスラー『美しきロスマリン』
⑥クライスラー『中国の太鼓』
⑦サン=サーンス『ヴァイオリンソナタ第1二短調 op.75』

【演奏会の模様】
 会場に入りホールを見渡したら、観客は隣合って座っています。そう、両隣がいるのです。でも何となく満席感がないので、よくみたら一列は全席埋まっていても、その前後の列が、全部空席になっていました。係の人に聴いたら、”感染症予防のため、座席は一列ごとにしており、全座席の1/2に抑えています”とのことでした。マスク着用時の飛沫実験はどこかの機関で実験かシミュレーションでやったという報道があった様な気がします。確かせき、くしゃみ時にはマスクの隙間から飛沫が漏れて左右上下に拡散するのでしたっけ?とするとやはり市松配置(座席トータル数は同じですね)の座席の方が飛沫を吸い込む確率は低いのではないでしょうか?しかるべき機関で実験かスパコンを使ったヴァーチャル実験をすれば、どちらがどうかということはすぐに結果が分かる筈なのですが。技術大国の日本で科学的根拠に基づかない施策を行うのは危ういですね。ミューザの館内放送では盛んに感染症予防の呼びかけをしていましたが、肝心の処でしり抜けにならない様にしたいものです。

 さて演奏の方ですが、オパールグリーン系の色をした厚手の生地のビスチェドレスを身にまとった神尾さんが登場、白い肌に大変お似合いの装いです。

①の『ロマンス』をかなりスローテンポでスタートした神尾さんは、深くはないが真直ぐな綺麗な音で弾き始めました。田村さんのピアノ伴奏もVnのテンポを誘導するが如く随分ゆっくりとした演奏です。何かいつもの演奏より活気がない感じ。これからエンジンがかかって来るのでしょうか?少しけだるささえ感じられ、この「ロマンス」は互いの愛のすれ違いの状況なのかな?等と妄想してしまいそう。後半のテーマの繰返し部になるとやや元気が出て来ました。力強さも出て来てそのまま終了。この曲は大変素晴らしい曲なのですが、若干短いのが玉に瑕でしょうか。この倍ぐらい長くこのロマンティックなメロディに浸っていたいなー。全体的に透明な音です。神尾さんの音出しは素晴らしい、何か神がかっていますね。

 この曲は2番となっていますが、1番の『ロマンス』を、小澤征爾の最後の(と言っては失礼ですね。…かも知れない)指揮でアンネ=ゾフィー=ムターが弾いたのを聴きました。その時はやはり冒頭かなりけだるく相当ゆっくりとした演奏でした。ムターさんと言えば、コロナはどうなったのでしょうか?もう直ったでしょうね。 

②ソナタ『春』は四楽章(2-1, 2-2, 2-3, 2-4)構成。

 2-1、冒頭ほんの瞬間ですが指使いがもたつく、すぐにあの綺麗な澄んだ音が繰り出され、ピアノがテーマを弾く間はヴァイオリンが伴奏に徹し、田村さんのピアノも、銀シャリの様に磨き上げられた粒ぞろいの音を繰り出している。この楽章はもう「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」と呼んでもいい程、ピアノの活躍が目立ちますね。勿論神尾さんはそれ以上に大活躍で素敵な調べを繰り出していましたが。

 2-2、ゆっくりとしたピアノの音が先導となり、ヴァイオリンが続きますが、その後ヴァイオリンはピアノの伴奏的演奏に徹します。この楽章もピアノとヴァイオリンは対等な存在感か?

 2-3 軽快なピアノの舞踊的リズムの先導で開始、すぐにテーマを両者が強奏、繰り返し演奏の後すぐに終了。やはりこの章もベートーヴェンはヴァイオリンに圧倒的な活躍の場を与えていません。でも神尾さんはそれをものともせず、冴え冴えと響く音を軽々と出して演奏していました。

 2-4 この章もテーマを先ずピアノがイントロしてヴァイオリンを誘い、何回も主題及び変奏を繰り返し演奏、神尾さんは益々絶好調といった感じで大ホール一杯に冴え冴えとした決して細くない、太いとも言えない、神尾さんだけの音を響かして終了しました。暫し一瞬の沈黙の後、大きな拍手が湧き起こりました。

 この曲が『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』と呼べるほどだと思っていたら、同様なことが、配布されたプログラムに記載がありました。いつだったか別な演奏会でも別なベートーヴェンの曲で、似た様な印象を持ったことがありました。こうしたことはベートーヴェンがヴァイオリニストでなくピアニストであったことを思い出せば、当然なのかもしれません。 

続いて

③はクライスラーです。③④⑤を纏めて「ウィーン古典舞曲集」とも呼ばれ、一体として演奏されることも多い曲です。神尾さんの演奏は相変わらず素晴らしい音とテクニックでこの良く聞くメロディを紡ぎ出していましたが、ウィンナーワルツ的要素の表現がもう少し明瞭であれば、ウィーンらしさがもっと出たと思います。

④は確かに③と比べるとやや地味ですが、それ程悲しくなる曲ではないですね。その他に『愛の苦しみ』という曲は無いのでしょうか?

⑤のロスマリーン(ローズマリー)の演奏が三部作の中では一番良かったと思いました。

 確か神尾さんはロシアの方と結婚されて、そちらにお住まいとのことを耳にしたことがありますが、ウィーンとはどの様な関わり合いを持たれたのでしょうか?ウィーンの雰囲気は好むと好まざるにかかわらず一種独特のものを醸し出しますね。そう言えばウィーンフィルの来日、どうなるのでしょう? “規制緩和の動き急なれど一歩届かず” にならなければ良いのですが。この先一週間位で白黒はっきりするでしょう。

 続いての⑥は非常に技巧的な感じの曲で神尾さんのテクニックの確実さを見せつけられた演奏でした。

 最後の⑦のサンサーンスのソナタは初めて聴きましたが、一昨日聴いたブラームスの曲にも負けない位新鮮な響きを有する素晴らしい曲でした。神尾さんの力演もみごと、さすがでした。

    サンサーンスの本格的曲はそれ程接する機会は少ないので、(勿論神尾さんの演奏の素晴らしさもありましたが、)これを聴いてサンサーンスの天才性を感ずることが出来ました。子供の頃は‘神童’と言われたそうです。しかも随分長寿を全うしたのですね。そして多くの曲を作ったのですね。天才マラソン人生ではモーツアルトを凌ぐかも知れません。今後サンサーンスの曲の演奏会に注目していきたいと思いました。

 尚、鳴り止まぬ拍手に何回かステージに戻って挨拶を繰り返した田村さんと神尾さん、アンコール演奏に臨みました。アンコール曲は⑧バッジーニ『妖精の踊り』と⑨マスネ『タイスの冥想曲』の二曲。

 ⑧はあらゆるテクニックを駆使した速いパッセージが多い曲で、特にピッツィカートをふんだんに取り入れた猛ピードの弦の動きが印象的でした。すごい超絶技巧を披露してくれました。

 ⑨はよくアンコールで聞く曲です。しっとりとして心が和みますね。

 今日の結論は「演奏会に来て大満足」でした。また機会があったら是非聴きに行こうと思います。