HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『砂川涼子ソプラノリサイタル』

    コロナ禍で、演奏会が軒並み休演となって活動中止になった後、砂川涼子さんが、今回初めて活動を再開するということを聞き、またフランス歌曲を歌うこと、しかもピアニスト界の大御所、清水和音さんが伴奏共演するということを知り、会場が横浜から遠い池袋の芸術劇場で、しかも平日の昼前開演というハードルが高いコンサートだったにもかかわらず、朝早く出発して10時半の開場時間に何とか間に合うことが出来ました。
 これまでオペラでは、砂川さんがタイトルロールを歌う場合でも、ダブルキャストのケースが多く、別な歌手の日を聴いたりして、一度も聴く機会がなかったのです。昨年の12月になって紀尾井ホールでの「砂川涼子ソプラノリサイタル」で‘初めて生の歌声を聴いたのでした。その時のアンコールに歌った椿姫の一節が流石がと思える程の歌いぶりだったので、機会があったらまた聴きたいと考えていたのでした。
 プログラムの詳細は以下の通りです。
  
【日時】 2020年09月23日(水) 11:00 ~1時間程度

【会場】東京芸術劇場大ホール(芸劇ブランチコンサート)

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【共演】ピアノ清水和音

【ナビゲーター】八塩圭子

【曲目】全曲フランス語演奏
①フォーレ『Après un réve(夢のあとに)』

②フォーレ『「Requiem(レクイエム)」より“Pie Jesu(ピエ·イエ ズ)”』

③デュパルク『Chanson triste(悲しき歌)』、『Invitation au voyage(旅への誘い)』

④プーランク『歌曲「Les fiançailles pour rire(偽りの婚約)」より“Fleurs(花)” 』
⑤プーランク『Les Chemins de l’amour(愛の小路)』

⑥アーン『Si mes vers avaient des ailes(若し私の歌に翼があったら)』

⑦アーン『A Chloris(クロリスに)』
⑧グノー『歌劇「Faust(ファウスト)」 より“Air de bijoux(宝石の歌)”』

⑨ビゼー『歌劇「Carmen(カルメン)」より“Je dis que rien ne m’épouvante(怖くないと言ったけれど)”』

【演奏の様子】

 暫くぶりの舞台だということですから、本格活動に向けての喉馴らしの意味合いもあったのでしょう。青いシックなドレスがとても似合う砂川さん、オペラの主役を演じたら歌だけでなくその姿にも多くの観客が酔いしれるだろうと思いました。

 歌声の質は、①フォーレAprès un réve の立ち上がりこそやや控えめですが、清廉な感じの良く通る声で、厳かな雰囲気の歌をしっとりと歌いました。恋人が離れて行ったことを嘆いている歌なのでしょうか?天国に召されたのでしょうか?嘆きと神秘性が良く感じられました。

続く②フォーレPie Jesu はさらに宗教的な厳かさで短い祈りを何回も繰り返し歌います。その歌声を聴くと、彼女はオラトリオ歌手にも向いているかななどと思ったりして。

 次のデュパルクは初めて聴く作曲家ですが、調べてみるとフランキストの一人だったのですね。体の具合が悪く40歳までには作曲活動が出来なくなり、少しの歌曲が知られているのみだそうです。

 ③デュパルク『Chanson triste』、『Invitation au voyage』はその代表的な歌で、

第一曲目は、歌の山谷、強弱を交互に流れに乗せ、「悲しむ」というより、“Je me noierai dans ta claret” “Tant de baisers et de tendresses que peut âtre je guérirai”

と癒しと望みを込めて歌うのですが砂川さんは②までとは異なりかなり情熱を込めた歌い方をしていました。

 二曲目の終盤ではピアノが、キラキラと“d’hyacinthe et d’or”に輝く様子を表現するかの様な伴奏で、運河の波に小刻みに揺れる舟を旅の象形としてかなり力の入った歌い振りでした。

 この間にナビゲーターが登場し、清水さんと若干のトークを交わしました。歌曲の伴奏的演奏は清水さんの長い経験の中でも非常に珍しいとのこと。

 次曲④プーランク『Fleurs』はもう少しゆったりとしたテンポの方が恋に破れ失望した雰囲気が出たのでは?
 プーランクの二曲目⑤『Les Chemins de l’amour』は有名な曲で小生でも何回も聴いたことがあります。特に

 Chemins de mon amour,Je vous cherche toujours.Chemins perdus vous n’etes plus et vos échos sont sourds. Chemins du désespoir,chemins du souvenir, chemins du premier jour,divins Chemins d’amour.

の一節は非常に有名なシャンソンで、Refrain de la chanson の盛り上がりがいいですね。前半(①~⑨)ではこの歌が一番聴きごたえがあり良い歌唱でした。

 次のアーンはほとんど聴かない作曲家でした。ベネズエラの外交官だった父親の代にパリに移住、パリ音楽院でマスネの弟子だった様です。

⑥曲目の『Si mes vers avaient des ailes』はプログラムでは「歌の翼に」とあったので、一瞬メンデルスゾーンの歌の翼をモディファイしたのかな?と勘違いしました。あれはドイツ語のハイネの詩ですから異なります。この曲のフランス語を文字通り訳せば「若し私の詩に翼が生えていたら」でしょう。短い曲でしたが、砂川さんは調子を上げて歌っていた感あり。“~vers avaient~”などのリエゾンは明瞭に聴こえました。

 次の⑦曲『A Chloris』のクロリスは多分、薔薇の名でしょうか?淡いピンク色でとげが無く良い香りがするらしい。フランス原産だそうです。もともとクロリスはギリシア神話のニンフの事みたいですよ。花と春の象徴、そうローマで言えばフローラです。

前奏、伴奏、締め括りと一貫して「タラララン、タラララン」という優雅なピアノの音に合わせるかの如く、歌もゆったりと幸福にみちた雰囲気を響かせていました。

 ここで前半は終了し、20分の休憩です。休憩中にふっと気が付いたのですが、今日の前半のプログラムの選曲を見ると、その内容からしてこれらの歌は、「コロナ禍」で苦しんだり亡くなったり、失われたりした大切な人、大切な物などへのEncouragement(励まし) Chanson de deuil(挽歌)Hommage(賛辞)ではないかということです。それは長く演奏活動が出来なかった砂川さんご自身へ向けられたものかも知れません。

 さて後半の二曲は、有名オペラの中からのアリアです。砂川さんがこれまで何回となくステージで歌ってきた曲でしょう、きっと。

 後半開始の前に八塩ナビ、清水さん、砂川さんによるトークがあり、清水さんは、「大学でもピアノ科と声楽科は治外法権みたいなもので、ピアニストと歌手が一緒に演奏することは無い、今日は自分でも非常にレアケース。喉を楽器とする歌手の中でもソプラノの人の意向は第一優先で、はれ物に触る様であり、“今日は歌えません”と言われればそれまで。」と話していました。砂川さんは、八塩さんのどの様に選曲され練習されたのかという質問に「清水さんからフランス歌曲のリクエストがあり、スート入って来る歌曲と有名な歌曲を選びました。合わせて清水さんからは多くのアドヴァイスも貰ったのです。」と語られていました。また「フランス歌曲はハードルが高い」とも。

 

 さて後半の最初は第⑧曲はグノー『ファウストの“Air de bijoux(宝石の歌)』

 その次の第⑨曲はビゼー『カルメンよりJe dis que rien ne m’épouvante(怖くないと言ったけれど)』でした。

 何れもオペラの中では超有名なアリアで、砂川さんはオペラ歌手としての本領を発揮し、力強く陰影に富んだ歌声を会場一杯に響き渡らせていました。

 

 全体を聴いた感想は、やはり舞台に立つのは暫くぶりなのか、昨年12月に聴いた時よりは、声のチューニングが未だしの感がし、特にオペラの独唱曲では声を無理に張り上げているなと思われる箇所もありました。でも流石に声量も有り、比較的透明な素晴らしい声で、多くの観客(今回はいつもの対コロナの市松模様が崩れる程の観客が入っていました)を魅了し、最後は大きな拍手だけでなく、誰かが思わず大きな声を上げる風景も見られました。

 一方これはちょっと気になった点なのですが、歌詞の発音が不明瞭でした。渡されたプログラムのフランス語歌詞を見ながら聴いていましたが、明瞭に聴こえる箇所が少なかったですね。自分の耳が良くないのかと思って、家に戻ってから、クレスパンやデッセイ(仏)、アメリング(オランダ)などの同じ歌の録音を聴きましたが、皆さん明瞭な発音でした。

 確かに学校英語にばかりに力を入れる日本の教育では、フランス語のハードルは高いですね。フランス語自体が文法的に複雑だし、鼻濁音などの発音、リエゾン、アンシェヌマン、エリジオンなどなどの発音ルールがあるし、困難性は高まります。でも秋田弁を話せる様になったアメリカ人もいることですし、やはり言葉は慣れなのでしょうね。

 ところで、このところ“Go to travel”のさらなる拡大やイヴェント等の大人数規制の緩和などが報道されていて、音楽会も規制が緩やかになってさらに演奏会開催の可能性が高まりつつあるかなと思っていた矢先

またまた開催中止、払い戻しの通知が来てどうしてかな?と考えこんでしまいました。今日サントリーホールから「五嶋みどりVnリサイタル」の中止・払い戻しが来ました。二回聴くことにしていたので、がっかり。またつい最近はチャイコフスキーコンクールのピアノ部門覇者のカントロフが中止・払い戻し、ロンドン交響楽団、バイエルン放送もとっくに中止決定で払い戻し、9月分では「ストバリコンサート」の払い戻しをしました。こうしてみるとサントリーホールから昨日、来年元旦のウィーンフォルクスオーパー管弦楽団のチケット発売があったので買いましたが、ホントに大丈夫なのかな?今後寒くなって来ると、コロナが勢いづくばかりでなく、他のインフルエンザの流行もあると予測する人もいる様ですから心配は尽きません。