HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『水越啓シューベルトリサイタル』-美しき水車小屋の娘―

 今日久しぶりで、テノールのリサイタルを聴いて来ました。

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 あれは今年1月でしたか、ドミンゴの最後(と思われる)リサイタルを聴きました。でもドミンゴ一人でなくソプラノと一緒のジョイントコンサートでしたし、もう少し遡ると、昨年12月にフローレスのリサイタルも聴きましたが、何れもオペラ歌手のテノールで、今回の様な歌曲を専らにする歌手を聴くのは、ほんとに、いつだったか思い出せないくらい暫く振りなのです。オペラ歌手はビンビン響く大声量で、聴衆の魂を鷲づかみにする様な迫力がありますが、歌曲を歌う歌手は声量こそオペラ歌手に遅れをとるものの、微妙な節回しで、聴衆の心の襞に分け入り感動させることが出来るのです。楽しみにして、会場のJTアートホールに向かいました。

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JTアートホール アフィニス

演奏会の詳細は以下の通りです。

【日時】
 2020.9.19.(土)14h~


【会場】
 JTアートホール アフィニス(虎ノ門)


【演奏者】
 水越啓(テノール)
 (伴奏)小林道夫  

 使用ピアノ:スタンウエイ


【演奏曲】
 シューベルト作曲

歌曲集『美しき水車小屋の娘(Die schöne Müllerin))Op.25 D795』より

【歌詞】
ヴィルヘルム・ミュラー( Wilhelm Müller)

【曲目】
①第1曲 旅への想い (Der Wandern)
②第2曲 どこへ? (Wohin?)
③第3曲 止まって! (Halt!)
④第4曲 小川への感謝 (Danksagung an den Bach)
⑤第5曲 仕事おわりに (Am Feierabend)
⑥第6曲 知りたがり (Der Neugierige)
⑦第7曲 もどかしさ (Ungeduld)
⑧第8曲 朝の挨拶 (Morgengruß)
⑨第9曲 粉ひき屋の花 (Des Müllers Blumen)
⑩第10曲 涙の雨 (Tränenregen)
⑪第11曲 僕のもの! (Mein!)

 

≪20分休憩≫


⑫第12曲 ひと休み (Pause)

⑬第13曲 緑色のリュートのリボンで~色あせぬ緑(Mit dem grünen Lautenbande)⑭第14曲 狩人 (Der Jäger)
⑮第15曲 嫉妬と強がり (Eifersucht und Stolz)
⑯第16曲 好きな色 (Die liebe Farbe)
⑰第17曲 嫌いな色 (Die böse Farbe)
⑱第18曲 萎れた花 (Trockne Blumen)
⑲第19曲 粉職人と小川 (Der Müller und der Bach)
⑳第20曲 小川の子守歌 (Des Baches Wiegenlied)      

【演奏の模様】

 水越さんはプログラムのプロフィールによれば、東京藝大大学院修了後、オランダを中心に演奏活動をされて、バッハのカンタータやモッテトの録音もしておられる様です。伴奏の小林さんは、チェンバロやピアノ伴奏の大御所で、小林道夫伴奏で多くの世界の名演奏家と共に演奏、録音、録画はこれまで数多く残され名をあげています。

 ドイツリートで我が国で最も有名だったのは何と言ってもバリトンのフィッシャー=ディスカウ。テノールだったらペーター・シュライアーでしょうか。でも何れも鬼籍に入られています。往年の名ソプラノにはエリー・アメリングがいましたね。現在も歌われているのでしょうか?

 その後個人的には、他の分野の音楽で聴きたい曲が沢山出て来て、リートを聴くのは大好きだった筈なのですが、とんとご無沙汰になってしまっていました。ですから欧米でその後頭角を現わした歌手はいるでしょうけれど、ほとんど聴いていません。今回はたまたま演奏会案内が目に入り、シューベルトのリート中のリート『美しき水車小屋の娘』を正面切って歌うというプログラムだったので是非聴きたいと思ったのでした。(たしかこの曲はグノーのファウストとも関係があった様な気がします)

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 水越さんは、なかなかいい声の持ち主で、力のこもった歌い振りで、ドイツ語の発音もほとんど正確、終始安定した歌を聴かせてくれました。

 全14曲を難なく歌い終わり中には穏やかな歌、激しい歌いろいろありましたが、個人的好みですと、⑧Morgengruß ⑨Des Müllers Blumen ⑩Tränenregen あたりがおだやかで、その調べもいい曲だと思いました(勿論その他にもいい歌は多かったですが)。シューベルトの面目躍如といった感がする。でもこの三曲とも同じ穴のムジナというか、かなり類似した感じのメロディがありますね。休憩後の最初の曲が⑫Pause(一休み)だったのには思わず微笑んでしまった。またこの曲の伴奏が面白いですね。歌の前奏、間奏、後奏のピアノのリズムがこれまでにない軽快なものでした。リュートの弦からの音の表現なのでしょうか?

 全体的に良かったのですが、特に最終曲⑳Des Baches Wiegenliedがこの日最高の出来だと思いました。安定して伸びのある歌声、力みは無く調べに陰影の表情が出ている、声も非常に澄んで良く整っていました。

 “終わり良ければすべて良し”なのですが、ちょっと気になった点を一、二書きますと、

(1)二十曲全体安定はしていましたが、逆に言うと変化にあまり富んでいない気がしました。全体がストーリのある物語ですから、悲喜こもごも愛の鼓動、恋の予感、感情の高まり、落胆、死の予感等々を一層メリハリをつけて表現出来ればさらにインパクトが強くなると思います。

(2)これは非常に少ないのですが、ドイツ語の発音が不明瞭な個所が散見されました。例えば⑯曲中や⑳曲中の「~Grün~」「~Grünen~」。それ以前の曲でもどこだったか忘れましたが、明瞭に聴こえない箇所がありました。滑舌が良いと外国語も綺麗に聴こえますね。

 以上まだまだお若いのに相当なレヴェルに達しつつあるリート歌手とお見受けしました。今後のさらなる発展が期待できると思いました。

 ところで、演奏会場は虎ノ門にある日本たばこ産業(株)の本社ビル2階の小ホール(JTアートホール アフィニス)でした。ただこのビルはJTが昨年売却を決定しており、2021年にはJT本社も引っ越す予定だそうです。そしたら音楽ホールはどうなるのでしょうか?駅から近いしリサイタルなどにはもってこいなのでしょうが。 

 久し振りで虎ノ門界隈でシューベルトの音楽に接し、ウイーンを思い出しました。この界隈にはすぐ近くに、ウイーン菓子専門の店が以前からあるのを知っていました。

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Zuckerbäckerei Kayanuma

JTから徒歩3分位でしょうか(サントリーホールの帰り道だと少し離れているので寄りづらいですが)。今日は演奏が16時ころまでには終わったので、菓子屋さんに寄って何か買うことにしました。店の名は「Zuckerbäckerei Kayanuma」と言います。独語の旧字体で書いています。レストランも隣接してあり。

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ウィーンのデメルで修業した日本人が創業したのだそうです。店に入ったら「もう今日は余りありません。ほとんど売れてしまって。」と店員さんが言うので「丁度4時ですが早いですね。」と訊いたら「今日は4時閉店なので」とのこと。幸い「クグロフ」が残っていたので一つ買いました。

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クグロフ(Gugelhupf)

 この菓子はマリー・アントワネットも愛用したそうです。ウィーンを思い出しながら明日家族で食べる予定です。