HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『2020東京音楽コンクールピアノ部門本選』拝聴

 昨日土曜日(2020.8.29.16:00~)、東京文化会館で行われた、今年の「東京音楽コンクール」のピアノ部門本選の演奏を聴いて来ました。このコンクールは東京都などが主催し、今回で第18回目を迎える比較的歴史の新しいコンクールです。しかし年々その演奏レヴェルは急上昇しており、参加者も関東地方のみならず全国各地から集まり、ここ数年は他の国々から、他国研鑽中の日本人のみならず外国人の参加者も増えている様です。

 多くの楽器などを 大括くりで「木管楽器」「金管部門」「弦楽部門」「ピアノ部門」そして「声楽部門」に分け、その中から幾つかの部門を選んで参加者を募り、その年に無かった部門については次年以降順に行うことになっている様です。今年は、その内「金管部門」「弦楽部門」「ピアノ部門」の3部門でした。

 各部門とも第1次予選、第2次予選を勝ち抜いた演奏者が、本選に進む仕組みになっており、各予選、本選とも課題曲から演奏曲を選択して演奏します。

「金管部門」はホルン、トランペット、トロンボーン、テューバそれぞれに課題曲が課せられ、又「弦楽部門」はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスそれぞれに課題曲があります。オーケストラとの共演となるのは本選の協奏曲の演奏のみです。

 こうしてコンクールの概要を見ると、金管、弦楽ともに多くのかなり性格の異なる楽器が、一緒くたに比較選考されるという、神業でもかなり難しい作業がなされる様でして、二次予選から一般人もホールで聴くことが出来たのですが、聴きに行ってもこれらの部門は何が何だか比較のしようがないと思ったので行きませんでした。 

 その中で「ピアノ部門」だけは一つの楽器の競い合いなので、比較的分かり易いと思い、ピアノの本選のチケットのみを買って聴きに行ったのです。座席は1階の左前方で鍵盤が良く見える位置でした(残念ながらオケの一部の楽器、指揮の一部は、ピアノの蓋や他のオケの楽器に遮られて、良く見言えない処もありましたけれど)。

 さて本選に進出した演奏家四名と、選曲した演奏協奏曲は次の通りです。オーケストラは梅田俊明指揮、東京フィルハーモニー(基本2管編成、弦楽五部10型)です。

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ピアノ部門本選演奏者

【演奏者と曲目】

西本裕矢 NISHIMOTO Yuya

ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」 Op.73』

 

大崎由貴 OSAKI Yuki

ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37』

 

≪休憩(20分)≫

 

横山瑠佳 YOKOYAMA Ruka

ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58』

 

谷昂登 TANI Akito

S.ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30』

  これから分かることは、ほとんどの奏者がベートーヴェンのコンチェルトを選んでいることです。ベートーヴェンイアーならではの選曲です。我が国の代表的オケをバックにした、かなりレヴェルの高いピアノ演奏が期待されますし、続けてベートーヴェン三曲を一気に聴ける機会などそうは無いでしょう。挙句にもう一つはラフマニノフのコンチェルトときています。席もいいしチケットも安いし、暫く振りでいい曲を満喫出来る機会、しめしめと思った事も確かでした。

 

【演奏の様子】

①西本さんは経歴を見ると、藝高の2年生なのですね。表情には十代半ばかと思う位のあどけなさが残っています。でも演奏はしっかり、体を揺すりくねらせながら演奏に没頭していました。柔らかそうな指で、第1楽章では菅楽器との掛け合い部もカデンツァ部も、なかなかいい音を出していましたよ。指を強く打鍵して鍵盤を上下する箇所もまずまず、テクニックも相当高いですね。第2楽章のスタート部や弦のピツィカートに伴奏的に合わせる個処もうまくいっていました。

 第3楽章のスタートがやや不整合に聴こえたのは耳のせいでしょうか? Hrが先導する主題の変奏部の高音はコロコロと綺麗に出ていました。   唯ここまでで疲れて来たのか残りの力を振り絞って弾いている様子でした。

 全体的に演奏の歯切れが今一つという感がしました。でも西本さんの演奏のみのコンサートだったらきっと相当完璧な素晴らしい演奏に思えたことでしょう。でも次の人の演奏がありますから、どうしても比較されてしまいますね。

  ついでにベートーヴェンのPfコンチェルト関係を調べていたら、あのルドルフゼルキンが40年も前に来日演奏して、「皇帝」を演奏しているのですね。生で聴いてみたかった。その頃は東京にいなかったのかな?自分でも分からない?映像では今でも見れますけれど。音楽とはこういう風に表現するのだという手本を見ているが如しです。 

 

②大崎さんは、東京藝大大学院在学中でザルツブルグのモーツアルテウム音楽院に留学中の演奏家です。演奏を見ていて感心したのは、打音の性格により様々な指使い(立てたり寝かせたり、1本1本変化させたり)をしていたことです。しかも指の打鍵が強くも柔らくも変化自在といった感じでした。それに従いピアノから迸り出る調べの切れ味が良く

メリハリの利いた演奏でした。この演奏を聴くと①の演奏の物足りなさが良く理解できました。

 それにしてもベートーヴェンのPfコンチェルトは珠玉の玉手箱ですね。まず第一にメロディの良さ・発明があります。第二にオーケストレーションの良さ・Pfとのマッチング・曲としての迫力があります。第三にしみじみとした部分も含む音楽としての全体構成力。第1番も第2番も素晴らしい曲ですが、何故か今回のコンクールの選曲からは外されています。

 それはそうと大崎さんは先に述べた歯切れの良いよく訓練された指使いで、第1楽章のカデンツァ部も力強く主題のさまざまな変奏を、リズミカルな軽快さをもって弾き切りました。この人には柔らかいタッチの表現はあるのだろうか?と一瞬不安に思いましたが、思う間もなく第2楽章に入り、冒頭からしっとりしたソフトなタッチで情感の籠った調べを演奏しているのを聴いて、これは本物だと思いました。

 軽快な3楽章も力強く弾き終わりました。

 大崎さんの演奏は全体的に歯切れの良さの目立つ演奏でした。グールド的なノンレガート奏法でもないのですが、印象的です。話は飛びますけれどグールドはバッハ弾きで有名なのですが、べートヴェンも仲々いいですよ。ある時NHKラジヲからベートーヴェンの曲が流れていました。それが余りにも素晴らしい演奏だったのですが、演奏者が誰かを聴き洩らしてしまったのです。今の様にラジルラジルやアーカイブス機能など無い時代でしたから、NHKに電話して調べて貰ったら、それはグールドの演奏だったことが分かりました。ご親切に再放送の日時も教えてくれたので録音して今でも大事に持っています。

 

さて休憩後の演奏は先ず横山さん、

③のベートーヴェンの4番コンチェルトの演奏です。冒頭のオーケスラに先立つピアノのジャジャジャジャジャジャジャ、ジャジャジャジャージャンという導入部演奏は物凄くお洒落な響きがありますね。その後暫く主題がオケで続いて、本格的にピアノが鳴りだすのは2分半位経ってから後です。この方式ってベートーヴェンの発明ですか?

 横山さんは、Krに続くPfの掛け合い、アルペジョなどを鍵盤上を自由自在に指を動かして力強く表現、第1楽章のカデンツァはベートーヴェンの自作のものでしょう。左右の指の動きのバランスも良く音の粒も揃い、主題の変奏も綺麗な調べを奏でていました。

 カデンツアの最後の方で左右の手を交差させる処は、通常通り左手を右手の上を動かしたのですが、カデンツアの直前の左右の手が交差する場面では、左手を右手の下からクロスさせていました。

 第2楽章は弦の強いアンサンブルで始まり、Pfはしみじみとゆったりしたメロディを奏で、アッタカ的にすぐ3楽章に移行、Pfの音が良く鳴っていて、柔らかさも表現で来ていました。左右の強打部分も十分力強く演奏を終えました。

 横山さんは、藝大大学院を休学して現在ミュンヘン音劇大ピアノ科で修業中ということなので、全体的に安定的な演奏で力強さもあるものの、やや起伏が少なく平坦な演奏の印象がある事はすぐに克服されると思います。また音楽的表現力をさらに付けて行けば、素晴らしいピアニストとなると思います。 

 

④の最後の演奏は谷さん、桐朋女子高校の2年生だそうです。ただ一人本選でラフマニノフの協奏曲を弾きました。演奏前に若干の金管(Hr,Trb,Tb etc.)が増補されました。

 この余りにも有名な3番のコンチェルトは演奏時間も40分を超える長い曲で、オケとPfが大音響のアンサンブルを競い合う箇所も少なくないからです。

 谷さんは割と華奢に見える体の何処からあの強い打鍵が出来るのかと思う程大きな音を出していましたが、背中を丸めながら長い指と腕の骨格に力を掛けて弾く奏法は独特のラフマニノフさを表現できているのだと感じました。細かい処での改善点は散見されましたが、兎に角、大画面のシネマックス映画で大迫力の音響装置で映画鑑賞するのにも負けない素晴らしいものでした。最後の(歓声でなく)拍手はこの日一番の大きなものでした。

 演奏を聴き終わった結果、私の採点では、②の大崎さんと④の谷さんの演奏をトップにそえるとしたらどちらにしようかと迷いに迷ったのですが、ラフマニノフとベートーヴェンでは決定的な比較が出来ない位お二人の演奏は良かったので、ベートーヴェンイアーであるベートーヴェンに敬意を表して、1位大崎さん、そして2位は谷さんと心の中で考えました。3位は横山さんです。聴衆賞の投票は谷さんにしました。

 

≪追記≫

今日、東京文化会館のH.P.に掲載された審査員の審査結果は次の通りでした。

【ピアノ部門】
第1位 該当者なし
第2位 大崎由貴、谷 昂登
第3位 該当者なし
入選 西本裕矢、横山瑠佳
聴衆賞 谷 昂登
※同位に複数名いる場合は演奏順。