HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『ららら♪クラシックコンサート、4手6手ピアノ特集』@サントリーホールに今日(2020.8/17 18:30~)行って来ました

 表記のコンサートを聴きに行って来ました。

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 グランドピアノ3台をTの字に並べ、5人のピアニストが、曲に応じた人数で、入れ替わり立ち替わり演奏する趣向です。

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司会、演奏者、演奏曲目は、次の通り。


出演
上原彩子、近藤嘉宏、中野翔太、金子三勇士、松永貴志

司会 高橋克典 金子奈緖

予定曲目
①J.S.バッハ『ブランデンブルク協奏曲

②モーツァルト『2台のピアノのためのソナタ』

③チャイコフスキー『くるみ割り人形』より 

④ムソルグスキー『展覧会の絵』+プロコフィエフ『戦争ソナタ』

⑤ドビュシー『月のひかり』

⑥ラヴェル『ボレロ』

⑦カプースチン『シンフォニエッタOp49』

⑧ガーシュウイン『ラプソディー・イン・ブルー』


 尚その他に、5人の演奏者がそれぞれ、短い曲をソロで弾いてくれることになったと、司会者の説明がありました。演奏者と曲目は順に次の通りです。

Ⅰ. 松永貴志『神戸』 
Ⅱ.中野翔太『12のスペイン舞曲5番』
Ⅲ.金子三勇士『トロイメライ』 
Ⅳ.上原彩子『18の小品集第16曲)』 
Ⅴ.近藤嘉宏『幻想的小品集第2曲(鐘)』
 これらは、臨時のプログラムでした。
臨時の方から、簡単に纏めますと、Ⅰ.は松永さんが、阪神淡路大震災のあとの神戸の復興に寄せた曲なのだそうです。彼はもともとジャズ出身で、冒頭のコロコロした軽快なリズムからスタートし、時々ジャズ風のリズムを交えながら、からだをゆすり、くねらせ、楽しみながら弾いている様子が伝わって来ました。
復興も明るい局面をむかえた感じですね。
Ⅱ.では、スペインの民族音楽的しらべが良く表現されていました。
Ⅲ.では、トロイメライを、心を込めて音楽的表現を如何に伝えるか腐心している様子がよくわかり、聴いていてしんみりとしました。
Ⅳ.強いタッチで、かなり早いパッセージも、軽快に表現した指使いはさすがでした。
Ⅴ.これらの五曲の中では、一番渋く、力強い曲で、どこかで聴いたことのある感じ、多分ラフマニノフだろうと、思って聴いていたら、やはりそうでした。今度、全曲演奏を聴いてみたくなりました。
 臨時のプログラムとして、もう1曲、最後にアンコールとして、演奏されたのは『戦場のメリークリスマス』でした。五人のピアニストが、三台のピアノに入れ替わり立ち替わり交代で、この曲をソロあるいは、デュオ、トリオで、メドレー的に弾いて大きな拍手を浴びていました。

 次にプログラムの演奏についてです。(敬称略)

①バッハの『ブランデンブルグ協奏曲第3番』は、舞台右手のピアノを金子、左手のピアノを近藤が使って二台のピアノによるデュオでした。いつも聴いている曲とは、メロディなどは似ていても、似て非なりでした。全然違った曲の雰囲気を持っていました。確かに「ブランデンブルグ協奏曲」を2台のピアノための4手用に編曲された楽譜は出ているのでしょうが、聴いていてあのバッハの他の楽器との混然としたダイナミックな曲のうねりは、4種ピアノでは感じられなかったのです。これは全く別物ですね。バッハでもないですね。主旋律は金子が主に演奏していたと思いますが、近藤との左右バラバラで、音の融合が無かった。勿論楽譜的にはぴったり合った演奏なのでしょうが、客席に聴こえる音楽としては、演奏というより編曲の影響が大きいのだと思います。

②『2台のピアノのためのソナタ』、このモーツアルトの曲は、映像によるバレンボイム達の演奏を見ると、彼が舞台手前、アルゲリッチが舞台奥隣り(つまりピアの二台を平行に並べ二人は隣り合っている位置)で演奏すしているのを何回か聴いています。

 上原、近藤両者のデュオは何かちぐはぐな感がした箇所が結構ありました。彼女たちの演奏位置が関係有るのでしょうか?即ち上原さんが客席に背を向け、近藤さんが舞台左手と直角の位置の二つのピアノを使って弾いたのです。勿論今回は①の場合も②の場合もそれ以降すべて奏者は、相手の鍵盤演奏が見えない位置にいるのです。演奏相手は耳を頼りに合わせて弾くことになりますけれど、グランドピアノの距離(数メートル程度でしょうか)では、音波は必ずコンマ何秒か、いやそれ以下かな?ずれが生じる筈です。それだけが原因だとは思いませんが、何か呼吸のピッタリ感が無い演奏でした。事前に何回位合わせたのでしょうか?そういう意味でしっくりしないモーツアルトでした。因みに先に挙げた例では、時々二人の巨匠が相手の鍵盤、手さばきを見ながら演奏し、ぴったりの素晴らしい演奏をしていました。すぐ脇ですから音波のずれは生じないですね。しかもピアノの蓋は取り外さず二つとも開けたままです。一方今回のコンサートでは3つのピアノすべての蓋が取り外されていました。蓋を外した場合音が上部に上がりやすいと思いますが複数のピアノからの音がその後どこでどの様に混じり合い、拡散して反響し、客席にどの様に聴こえるか、何等かの実験データは無いのでしょうか?

 今回のプログラムの中ではこの②で、唯一作曲者の楽譜に忠実な本格的演奏を期待したのですが期待外れでした。

 ③チャイコフスキー『くるみ割り人形』よりでは、中野、金子、松永の三人による演奏。ピアノの甲高い音でこんぺい糖の踊りが表現され、一部オケ的アンサンブルを連想させる場面もあり、またジャズっぽい変奏もあり、なかなか面白い演奏でした。

 ④展覧会の絵と戦争ソナタのリミックスした演奏。プログラムの解説によればあたかもディスクジョッキーが二つのレコードを混成する如く、ムソグルスキーとプロコフィエフというロシアの作曲者の人気曲を同時に演奏する試みとあります。演奏は、中野と松永両氏。

 二人の演奏は良く息があっていたと思います。演奏の合間のトークで、中野がジュリアード留学中に松永が来訪し、二人でジャズからクラシックまで、いろいろと弾いたと言っていたので余程二人は馬が合うのでしょう。松永は巧みに元の曲にジャズ的旋律を交えていかにも楽しそうに演奏していましたが、ジャズのパッセージが混成すると曲に活気が倍増する様に思えました。

 ⑤『月の光』は上原と近藤のデュオ。一つのピアノで月をドビュシーは光の変化でとらえて表現した名曲です。二つのピアノでどう表現するのだろうか?二つの月になってしまう恐れはないか?などと演奏前は若干気がかりでした。二人の演奏を聴くと、例えれば、朧ろ月にかかる雲がゆっくり動き、月が二つに分かれて見える間もなく雲が取れて一つになった月がこうこうと光り輝き、そのかげが鏡の様な水面に写り出されている。しばし一陣の風と共に水面にさざ波が起こり、再び月は二つに割れ、砕けてしまう、そんな幻想を抱きながら聴いておりました。

 ⑥『ボレロ』は先日、ヴァイオリン独奏会でも聴いた曲ですが、あのラヴェルの情念、次々と心を突き上げる様な衝動は、ヴァイオリンでは表現で来ていませんでした。今回のピアノではどうでしょうか?上原、中野、金子による三台のピアノ演奏です。

 演奏の前に髙橋司会者が三演奏者に質問したりするトークがありました。司会者が月の光に因んで、ストローベリームーン(2020.6.6.)の日に屋上(自宅でしょうか?)に上がり、ドビュッシーのこの曲を聴いた、といった風流なことを述べ、司会者が上原さんに何が食べ物で好きですかといった質問をし、バナナを常時好んで食べて元気の基としている、チャイコフスキコンクールの本選の直前にも食べていたといった話、中野さんの先程のジュリアードの話などが為されました。尚今回の三台のピアノ版は中野さんが編曲したそうです。

 演奏は冒頭から、金子さんがピアノの弦が貼られている一部を片手で押さえ、他方の手でタタタタッと伴奏の音を弾き、また途中で中野はピアノの鍵盤の上の木部をあたかも小太鼓を手で叩くが如く叩いて音をたてたり、金子も同じ仕草で演奏したり、各種楽器の音の組合せで弾くオケのヴォレロを意識して、様々な音の組合せでオケ的な雰囲気も出そうとしたり、かすかなピアノの音から最後は三台のピアノで大音響の力のこもった音出しまで相当な力演でした。かなりオケのヴォレロに対抗できる演奏だと思いました。