HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『ベートーヴェン/Vn,Vc,Pfのための三重協奏曲&チャイコフスキー/交響曲第5番』演奏会(8/2)

 ミューザ川崎で今開催されている「フェスタサマーミューザ」のチケットは7月の会員抽選発売日に半数ほど申し込んで希望通り買えました。初日(7/23)の「オープンニングコンサート」はオケの生演奏を「録画指揮」という方式でしかも「限定観客」と「ネット配信」という斬新な試みだったので是非聴きたいと思って、コロナの第2波襲来の兆しはあったものの、本当に命がけで聴きに行きました(2020.07.24.付hukkats記事『フェスタサマーミューザ・オープンニングコンサート』参照)。その後コロナ感染は拡大の一方であり、昨日は東京で472人感染とこれまでで最大数、愛知県、兵庫県、福岡県、長崎県、沖縄県でも記録更新、大阪府も最大級の感染となり、先週のオケの演奏会はチケットを泣く泣く無駄にし、自粛生活をしていました。でも今日の演奏会は何としても聴きたい演奏会だったので、敢えて聴きに行きました。後ろ髪を引かれる思いでしたが。理由には幾つかあって、第一にベートーヴェンの三重協奏曲は、大変珍しい形態の曲でめったに演奏されません。生では初めて聴く曲なので非常に興味があったのでした。また二つ目の理由は、チャイコフスキーの『交響曲第5番』は、これまで生で聴いたうちでは、一昨年の小澤さんが最後に出た記念コンサートでの「「斎藤記念オケーストラ」の特に素晴らしい弦楽のアンサンブルが耳に残っており、一般的に『6番の悲愴』は一番の名曲として人気ですが、『5番』は演奏によってはむしろそれを凌ぐ名曲として表現され得るのではなかろうか?と認識を新たにした思いがあったからです。尾高さんの采配を見てみたかった。それにもう一つ、感染者数は、神奈川県が58人、埼玉県74人、千葉県73人と2、3日前と比べると周辺首都圏では少し減っているのです。それも背中を押した要因の一つです。若し東京同様、増える一方で最大数更新の状況だったらとても怖くて出掛けられなかったでしょう。

 いつもながら、前置きが長くなりました。

 今回の席は抽選だったので座席選択が出来ず、1階の前の方の席でした。独奏楽器の演奏を聴くのにはいい席でしたが、オケの音は、頭上高い所を通過する音があり、全体を纏まって捉えるにはやや不利かなと言う感じもしました。

f:id:hukkats:20200803114028j:plain

演奏曲、演奏者等は以下の通りです。

【曲目】

①ベートーヴェン『ヴァイオリンとチェロとピアノのための三重協奏曲』

②チャイコフスキー『交響曲第5番』

【オーケストラ】尾高忠明指揮「東京フィルハーモニー交響楽団」

【ソリスト】Pf:田村響 Vn:戸沢采紀  Vc:佐藤晴真 

 

 尾高さんは知る人ぞ知る二代に渡る我が国の名指揮者、ソリストは20歳位から30歳代の若手の演奏家ですが、オケとの演奏経験も豊かで各種コンクールで好成績を収めている人達です。

 演奏開演の前数十分間、指揮者と東フィルのコンマスによるプレトークが有り、過去の思い出話や如何にここ数か月本来の音楽活動が出来なかったかなど主として尾高さんが話しておられました。皆さん海外での修行経験があることや血縁者(親子、その他)に音楽家がいること等々。今の日本、まるで世襲制のようです。お医者さん、弁護士、官僚、政治家、芸能人、音楽家まで。どんな分野でも自分の後継ぎを育て、ノウハウを伝え、一人立ちして貰いたいのは親心として当然なのでしょうか。エピソードの中でも尾高さんが学生の頃ザルツブルクで、カラヤンの演奏会の当日券を求めて会場に行ったら、百人も既に並んでおりチケット取得は無理だと思って、会場を見ていたら裕福そうな紳士が寄って来て、君はどんなことを今しているのか?と聞くので、音楽を、指揮を修業中だと言ったら、高価な席のチケットを取り出し尾高さんに差し出したというのです。とても高価なので買えませんと言ったら、いや急に都合が悪くなって聴けなくなったので君に上げます。勉強して立派な指揮者になって下さいとのこと。彼はカラヤンの友人だったそうです。嘘みたいな本当の話。その音楽通の人は、若かい尾高さんに将来性を感じたのかも知れません。

① ベートーヴェン『三重協奏曲』

クロイツェル、ワルトシュタイン、熱情、英雄が出来た同じ時期の作品の為かそれらと比較してこの曲を高く評価しない向きもある様ですが、結論的に言うと私は全く逆の評価をしたい。三種の楽器のソロとオケの掛け合い、三種の楽器の掛け合い、間のつなぎ具合、メロディーこそややウブな感じはしますがそれ故の純粋さ、全体の統合性、聴き終わった瞬間の満足感、これ程見事な作品はさすがベートーヴェンだからこそ出来たと思いました。

唯、この曲の録音(Pfリヒテル、Vn オイストラフ Vc ロストロポービッチ)を聴いた時の感じでは、Vcの活躍が非常に目立つ曲だなという印象を持っていたのですが、今回の三ソリストの演奏は、Vc は部分的なソロの時を除きほとんど音が目立つことは最後までありませんでした。その代わりと言っては何ですが、Vnの演奏が際立っていました。まるでヴァイオリン協奏曲?みたい。Pf 演奏は堅実でした。

(第Ⅰ楽章)アレグロ

(第Ⅱ楽章)ラルゴ

(第Ⅲ楽章)ロンド・アラ・ポラッカ

 

②チャイコフスキー『交響曲第5番』

  やはりこの曲は、期待していた通りの演奏を尾高さんの指揮は具現化していました。

いや尾高さんの指揮は、予想を遥かに越える名演とも言える程のものでした。

兎に角ダイナミックで、迫力があって、それでいて繊細な心意気のパッセージもあり、久しぶりに聴く東フィルの演奏は素晴らしいものでした。

(第Ⅰ楽章)アンダンテ,アレグロ・コン・アニマ,モルト・ピュ・トランクウイロ)  

 曲の前四半部辺りのホルンに続くピッツィカートの後、Clだと思うのですが、カンカンカンカンとかん高い音が二回繰返される箇所が、いつもだと遠くで鳴く小鳥の様で印象的なのですが、今回ははっきり聞こえなかった。全体的に見て弦の優勢さが印象付けられました。

(第Ⅱ楽章)アンダンテ-カンタービレ,コン・アルクーナ・リチェンツァ

 何と言っても最初の1Hrのソロが見せ場、静かな弦のイントロに続くしっとりと響くHrの調べはすんなりと気持ちに分け入りました。1Clとの二重奏も良かった。この辺りのメロディはやや暗いですがいい感じ、好きです。 

 管のソロが多い楽章です。Hr、Cl、Fg、Ft、何でもありですね。1VnのピッツィとObの掛け合いがお洒落感があり素敵。

終盤の主題部の演奏は全体がかなり力を込めて演奏、非常に綺麗なチャイコフスキー節を腹一杯堪能しました。

それにしても最後静かに弦の主題演奏で終わりを告げるゆったりしたメロディの直前、ブラスが如何にも楽章の終了を告げる響き、ジャジャジャジャの部分はマーラーの終わり方のメロディ似だと思いませんか?もう一声ジャンが付加されればそっくりな曲がある。この頃チャイコフスキーはマーラー他の有名作曲家とも交流があったらしいので、曲にもマーラーの影響もあったのかな?

 

(第Ⅲ楽章)ワルツ:アレグロ・モデラート

 いつもここを聴くと、エトワールが流麗に舞い踊る姿が瞼に浮かびます。

Hrの音が割れた様な金属音が時々あり気になりました。 

(第Ⅳ楽章)アンダンテ・マエストーソ,アレグロ・ヴィヴァーチェ

スタートの弦のアンサンブルは大変良いと思いました。

ティンパニーが元気に響き、次の速いパッセッジのウンジャ、ウンジャ、ウンジャジャのリズミカルな部分が良く引き出されていた。

最後の弦、管の盛り上がるフィナーレ部は、尾高さんも楽団員も全員渾身の力を込めての大力演

だったので、聴く方としてもついこぶしを握り締め、終わるとすぐに館内の大拍手に合わせて手を打ち鳴らし、後で痛くなる程でした。皆さん演奏前と比べて相当体重も減ったのではないでしょうか?

全体的に見て弦の響きが優勢で管、特にブラスの響きがやや弱いと思いました。 世界のオーケストラによってはホルン他のブラスをさらに拡充している場合も見かけます。

 でも最近に無い位の感動する演奏でした。良かった。

 尾高さんはリハーサルを含めどれくらいの時間をかけてこの演奏を作りあげたのでしょう。

 ただ先に触れた斎藤記念オーケストラの演奏の方が弦アンサンブルの透明度が高かったかなという気がします。大分前の記憶なのではっきりとは言えないですが。

 

 尚、アンコールがあり、①の後に ソリストアンコール として、フォーレの『3つの歌』より第1曲"夢のあとに" と ②の後にオーケストラアンコールとして、 チャイコフスキー『弦楽のためのエレジー「イワン・サマーリンの栄誉のために」』とが演奏されました。何れもしっとり感のある心が癒されるいい曲でした。