HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『Arai Violin Recital』at 東京文化会館小ホール(2020.7.21.19:00~)

 このリサイタルは、文化庁が、若い音楽家を支援する「次世代の文化を創造する新進芸術家育成事業(令和2年)」の一環で、”新進演奏家育成プロジェクト リサイタルシリーズTOKYO92”として今後幾つかの演奏会が実施される予定で、今回がその三回目のリサイタルとなります。

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🔘2020年7月21日[火曜日]19:00開演(18:00開場)
🔘出演者
 ヴァイオリン:荒井章乃
ピアノ:田中麻紀
🔘曲目
①ルクレール『ヴァイオリンソナタ ニ長調 作品9-3』
②西澤 健一『無伴奏ヴァイオリンのための小ソナタ』
③ブラームス『ヴァイオリンソナタ 第2番 イ長調 作品100』
④プロコフィエフ『ヴァイオリンソナタ 第1番 ヘ短調 作品80』
⑤ラヴェル『ツィガーヌ』

🔘主演者略歴
【荒井章乃 Ayano ARAI】/ヴァイオリン
桐朋学園大学卒業。かながわ音楽コンクールにてピアノ部門優秀賞、ヴァイオリン部門最優秀賞及び神奈川新聞社社長賞受賞。全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第1位受賞。霧島国際音楽祭にて特別奨励賞及び優秀演奏賞、霧島国際音楽祭賞受賞。第6回大阪国際室内楽コンクールピアノ三重奏部門第3位受賞(日本人初の入賞)。宮崎国際、防府等の音楽祭、JTアートホール室内楽シリーズ、NHK-FM「名曲リサイタル」、(一財)地域創造公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム等に出演。ヴァイオリンを堀正文、辰巳明子の各氏に、室内楽を東京クヮルテット、ゲルハルト・ボッセの各氏に師事。現在、ソロ・室内楽・オーケストラ等幅広い演奏活動を行う。アクロス弦楽合奏団メンバー。桐朋学園大学音楽学部附属子供のための音楽教室講師。
 🔘伴奏者略歴
【田中麻紀 Maki TANAKA】/ピアノ
附属高校を経て、東京芸術大学卒業。ドイツ、シュトゥットガルト音楽大学大学院修了。PTNAコンペティションDuo部門 (2台ピアノ) 最優秀賞受賞。川崎音楽コンクールに於いてベヒシュタイン賞(最優秀伴奏賞) 受賞。第4回日本室内楽コンクール第1位、併せて東京都知事賞受賞。特にアンサンブルピアニストとして定評があり、音楽祭への参加やコンクールの公式伴奏、CDやFMの録音など幅広く活躍。

🔘演奏者からのメッセージ(Webに載っていたものの転載)
【荒井章乃より】
 私は小さいころ、練習は苦手だけど人前で弾くことが大好きでした。ビート板を舞台に見立て、プログラムを作り、弾ける曲や作品とは決して言えない"自作"曲を次々と演奏して、「リサイタルごっこ」というものをしていたことを、今も覚えています。喜んで聴いてくれる家族の笑顔が嬉しくて、''作品を弾く"ことがただただ楽しくて・・・。そんな純粋な想いから、私はヴァイオリンという楽器を携え、大好きな音楽の世界への旅立ちを始めたひとりです。
 当然、万事順調だったわけではありません。それでも、コンクールへの挑戦や講習会への参加、尊敬する先輩アーティストの方々や、かけがえのない仲間との演奏会。近年は、かわいい教え子達との音楽の時間、等々・・・。
私なりに夢中で走り続けてきた、そんな時、"今の私"を一つの節目として"作品を弾く"という願いを、今回のリサイタルシリーズへの出演で叶えさせていただくことになりました。
 幼いころの私がそうだったように、ご来聴くださいました皆様からの"思い”が、明日への演奏活動へのかけがえのないパワーとなりますことを願っております。

🔘演奏会の模様

会場の東京文化会館小ホールはほんとうに久しぶりです。大ホールよりも足を運ぶ機会が少ない上、数か月間休止していたこともあって、あれは確か昨年の12月20日に『漆原朝子&今峰由香デュオリサイタル』を聴きに来て以来約半年ぶりでした。

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久々の東京文化会館小ホール、

今回は全席650席の内、100席程を使用した模様です。

①ルクレールの曲は、広範な楽器の曲を聴く傾向のある自分にとっては、時々鑑賞する程度の頻度で耳にする曲です。若い時はバロック音楽を今より聴いていたので、その時はかなりの頻度で耳にする作曲家名でした。でも一度彼の曲を聴いたら、そのリズムと装飾音とメロディの流れは、心にしっかりと根付いて印象深いものです。
 ルクレールは、18世紀初頭に活躍したフランスの作曲家でヴァイオリニストです。当然ながらヴァイオリンの名曲を多く残しています。最初に演奏されたヴァイオリンソナタニ長調作品9-3は、冒頭からゆっくりとしたメロディが重音の連続で響き、音と音の隙間には華麗な修飾音がはめ込まれ、華やかさが一層際立っていく。奏者は自信を持って弾いている。荒井さんのスタートの音を聴いてかなりピアノ伴奏とも息があっています。第2楽章のリズミカルなアレグロのトリルを含む重音演奏の後は、かなり暗い愁いを帯びたゆっくりしたメロディの3楽章に移り、最後はスピードを上げて終了、4楽章に入りました。最終楽章は、舞曲風の軽快な演奏です。かなりスピードで演奏、如何にも、ルクレールらしさを充分発揮した演奏だと感じました。ルクレールの流麗な技巧的な旋律、派手な装飾、これは気持ちよく面白い。弾く人はもっと面白いのでは?そればかり聴いていると飽きるかも知れませんが。


②西沢健一は、1978年生まれの国立音大系の作曲家でピアニスト。ピアノ曲やチェロ。ヴァイオリン、などのソナタや三重奏曲を作曲、国際的にも評価されています。
 今日の②の曲は様々な技巧を要する難しい曲だと思いました。何とも不思議な音色を立てる箇所もあります。様々な奏法で様々な音色を奏でて、音の饗宴の感有り。奏者は、それをたんたんと演じていました。出来ればもう少しメリハリの効いた聴く者の心をギュッと掴む様な処が合っても良いのではないでしょうか。

演奏後、作曲者もステージに上がって挨拶していましたが、演奏の曲を聴くとなかなか才能のある人だと思いますよ。


③のブラームスのソナタの演奏は、結論から言うとピアノの勢いにヴァイオリンが若干圧倒された感があります。
 この曲はブラームス53歳の最盛期に書かれた曲で、第1楽章(Allegro amabile )第2楽章(Andante tranquillo-vivace)第3楽章(Allegretto grazioso)の三楽章構成です。

第1楽章はPfのイントロで始まり、次いでVnのオブリガートで静かに同じテーマを奏で始まる。Pfの綺麗な音が目立ちます。一貫してPfが先導してVnを誘う形式が引き継がれ、Vnはそれに応じて綺麗な音色をたてている。

第2楽章でもガラッと曲相が変わることはなく、前楽章を引き継いでいる同質の感じ。

 いかにもブラ-ムスらしい調べで、途中ピッツイカートも入る。まるでピアノに伴奏しているが如きピッツイ。静かに奏でた後ピッツィカートとピアノが速いリズムで駆け上がり終了。

第3楽章は滔々とVnが太い音で気持ち良さそうに奏で、最後までVnが主導的だが、もっと情熱的に表現されればメリハリがつくのではと思いました。若干単調に流れたきらいがあります。

 全体としては充実感のある曲です。演奏もそこのところは、表現出来ていたと思います。それにしてもいつもブラームスのデュオ曲とか三重奏とかを聴いて感じるのは、ブラームスは意識してか無意識的なのかは分かりませんが、ピアノの存在を強く曲に表現しています。今回のヴァイオリンソナタも全体として『ピアノとヴァイオリンのための二重奏曲』といった感じがする。むしろピアノの存在を強く感じます。やはりクララの呪縛感がそれ程強かったからなのでしょうか?これは決して演奏のせいではありません。曲自体がそう出来ているからだと思います。楽譜を忠実に弾いていくとそうなってしまう。

演奏家にとっては“ブラームスの呪縛”かな?

④のプロコフィエフの1番のソナタは2番のソナタより遅く完成されたもので、四楽章構成です。全体的に不気味な憂鬱性を感じる曲で、この様なものを自分はあまり好みません。プロコフィエフのPf曲は技巧的にも聴いていて面白い曲が多いのですが(例えば「ピアノ協奏曲2番」、「蜜蜂と遠雷」で有名ですね)このVnソナタは途中不協音的響きも交じり、ピッツイカートも。Pfのポンポンポンという大きい音に合わせてのVnの弱いピッツイの意味が分からない。面白さも感じませんでした。

 ⑤のラヴェルの曲は超有名曲で、時々演奏されますね。1924年に作曲したもので今から100年も前になります。ヴァイオリニストのJelly d'ARÁNYI(イェリー)に献呈されたものと謂われます。

 この演奏が始まる前に、ずーとステージにあった譜面台が取り除かれました。奏者の自信が窺えます。

 初めはVnの独奏ですが、途中からPfが入り、単純なメロディの主題が登場、徐々にせりあがった雰囲気に移行する。

この曲でもピッツィカートが多用されました。弦を弾きながらのピッツイなどもあり、前曲の場合とは異なりここのピッツイでは、強い指弾きでまるでピアノの伴奏によるギターの演奏の如き雰囲気もありました。

 中盤の速い激しいメロディの演奏を聴きながらなぜか以前聴いたロマの演奏を連想していました。昔ブダペストのレストランで聴いたロマの人達のVn演奏と共通する雰囲気がある曲です

 終盤はテーマの繰返しを、益々感情が高ぶる様子で次第に速く激しく演奏されます。如何にもラヴェルらしい曲と思いました。ヴォレロのあの繰り返される感情の高揚、そっくりですね。

決して長くはない曲ですが、新井さんは、一気に弾き終えて瞬時の沈黙の後、観客席からの大きな拍手があり、それに深々と頭を垂れていました。

 

 全曲の演奏を終えて、新井さんの挨拶がありました。コロナ禍で色々制限がある中、準備など協力してくれた人々、励まし支えてくれた人々に謝辞を述べるとともに、“この大変な状況の中、命がけで聴きに来て頂いた聴衆の皆様に心から感謝致します。”と涙ぐんで述べられていました。その様に謂われると、まさに ”命がけ”  でしたが、聴きに来てホントに良かったと満足感がいや増しました。

 最後アンコール曲が演奏され、ブラームス(編曲ハイフェッツ)の『コンテンプレーション』でした。これも短いけれどいい曲でした。ヴァイオリンが歌っていました。・

 それにしても、最近の大都市でのコロナ感染者数の激増は驚く程ですね。5月に緊急事態宣言の解除を予定より一週間早めたのが影響したかな?第2波の到来でしょうか。全国に広がらなければ良いのですが。やっと再開にこぎつけたばかりの音楽会開催もまたShrink してしまう恐れがあります。先に9月来日公演予定のロンドン交響楽団の中止が発表されました。中小会場での各種リサイタルも中止となり、幾つかチケット払い戻しをしました。11月末のバイエルン放送交響楽団も中止が濃厚。ということはその間に予定されているウィーンフィルの来日公演も怪しいですね。三公演ともチケットを払い戻すはめになるのでしょうか?