今回のコンサートは、コロナ禍の中で、積極的にオンデマンド配信を行って実績をあげつつある反田さんが、演奏会会場(朝日ホール)に限られた人数(100人程度)の観客を入れて演奏を行い、同時に有料配信するというスタイルで実施したものです。この日、宮田大さん(Vc)が、ゲスト出演しました。(2020.7.18.土曜)
Ⅰ.午後の部(13:30~)とⅡ夜の部(19:00~)があり、Ⅰ.を聴きました。
会場は朝日新聞本社の浜離宮朝日ホール。このところ東京のコロナ感染者数が激増しているので、上京するのはよそうかなとも思ったのですが、せっかくの機会だし、演奏会が再開されてからも、それ以前も、ピアノと弦のアンサンブルは随分長いこと生で聴いていないし、このままでは、生の音の響きを忘れかけるのでは?と心配にもなってきたので、覚悟を決めて、感染防止に可能なかぎり注意して聴きに行くことにしました。少しでもすいている電車に乗ろうとして、早く家を出たら早く着き過ぎてしまった。
電車と言えば、窓が十分に開いてませんね。僕は乗ると必ず周りの窓を目一杯開けるのですが、閉まっている窓の近くに座っている人は、こちらをちらりと見ても知らん振り、特に若い人がじっとしていて動かず、飼い馴らされたロバの様に黙々とスマホを動かしている。
勤め先でも、黙々と業務をこなしていることで精一杯なのでしょうか?”もの申す若者”は望むべくもないのでしょうか?
そう言えば最近(ここ数年)は、電車で、お年寄りに若者が席を譲ったり、体の不自由な人や体調が悪そうな人に親切にしてやったりする光景にとんとお目にかからなくなりました。以前は結構見かけたのですが。
地下鉄築地市場駅に着いて、朝日新聞本社ビルに向かって歩き、朝日新聞二階のロビーに飲食できる店があったことを思い出し、行ってみたのですが、喫茶も食堂もやっていませんでした。そこのベンチに暫く坐っていましたが、お腹がすいてきたので、朝日ホールの方へ、歩いて行ったものの、開場にはまだ1時間以上もあるし、来た反対側に何か食事する店かコンビニがあるかも知れない、と思って高速道路側に朝日新聞社屋から階段を下りて行ったのですが、益々何もなさそう。新しいビルの建設か道路工事なのか分かりませんが、通行人は皆無に等しく、ビルの谷間を歩いてもそれらしい処は見つかりませんでした。朝日ホールはいろいろな意味で不便なので、出来るだけそこでのコンサートはこれまで避けて来ましたが、どうしても聞きたい場合のみ行きました。周辺地区はホントに休日なぞまさに『東京砂漠』の感がする。でも今では、コロナ禍を避けるためには返っていい場所なのかも知れません。
さてコンサートの話に戻しますと、
開場時間が近づくにつれ三々五々人々が集まって来ましたが、これまでのコンサートと比し、相当少ない感じがします。
圧倒的に若い女性客が多い。これはいい傾向ですね。クラシックが若いファン層に広がっていくことは。
朝日ホールの座席数は、トータル636席ということですから、120人集まったとしても2割程度の観客で実施した訳です。
今回はピアニストの反田さんが指導力を発揮して、若い演奏家達を集め、少人数の観客を前に生演奏し、その様子を同時配信するという、採算的にも良くなる可能性を秘めた方式の演奏会であることが特徴です。演奏の詳細はプログラムによると以下の通りです。
■出演者
反田恭平、MLMナショナル管弦楽団員(岡本誠司、島方瞭、大江馨、有田朋央、長田健志、水野優也、鈴木優、香月麗、大槻健、古谷挙一)
ゲスト:宮田大
■配信日時
7/18(土) 13:30、19:00頃配信予定 ※同日2公演
ライブ配信時間:120分を予定
アーカイブ視聴可能期間:7/20(月)23:59まで
■演奏予定曲目
<13:30公演>
プレトーク
①バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001 より アダージョ
②ドレーゼケ:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルンとピアノのための五重奏曲 Op.48より第1楽章
③ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 Op.8
④モーツァルト:ファゴットとチェロのためのソナタKv.292
⑤R.シュトラウス:メタモルフォーゼン(弦楽七重奏版)
<19:00公演>
プレトーク
ボッケリーニ:八重奏曲「ノットゥルノ」ト長調 Op.38-4(G470)
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番より 第2楽章 アンダンテカンタービレ
グリンカ:大六重奏曲
フィンジ:弦楽合奏のためのロマンスOp.11
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19
他
配信チケットは7/18(土)23:00まで発売中!
※アーカイブ視聴可能期間:7/20(月)23:59まで
以下に、聴いた午後(13:30~)の演奏の概要、感じた事、想った事を記します。
【プレトーク、反田他団員2名】
- コロナで、室内の演奏や防音部屋の演奏だったので、他の人の演奏音を聴くことなく耳がそれに慣れてしまった(怖いの意か?)
- ネット上の質問でピアニストになうにはどうしたらいいか?⇒WEBプログラムにピアニストになった動機を書いているので参考まで。音楽が好きということが大前提、初心を忘れないこと。
- 今日のプログラムには傑作中の傑作の曲、とほとんど聞かれない曲とが混在。
- “MLM”とは露語で「音楽を愛する者の集まり」くらいの意?
- ネットは便利。来年全国ツアーが出来るかも(ネットでの意か?)
①演奏者(Vn 岡本誠司)
●アダージョだが、それにしても随分 ゆっくりとしたスタート演奏。本調子がまだ出
ないのか、切々とした哀愁を帯びたメロディの音にやや不足感を感じる。(ギドン・
クレーメル、パールマンなんかと比べて)
②演奏者(Vn 島方瞭 Va長田健志 Vc水野優也 Hr鈴木優 Pf反田恭平)
●作曲者のドレーゼケは、ドイツロマン派初期の作曲家でブラームスの後輩にあたる。アルペジョの部分などブラームスに近い、弾いて‘かっこいい’と思った(反田)
●非常に変わった編成(Hr含む)でこ れまで聴いたことも弾いたこともない(鈴木)
●Hrがもっと活躍するかと思ったが、 意外と控え目。小さな管弦楽の雰囲気は有した。
③最後に回します(hukkats)。
④演奏者(Fg 古谷挙一 Vc 水野優也)
●モーツァルト19歳頃の曲、もう一曲Fgの 曲がある(古谷)。チェロ独奏、重奏の曲は非常に少ない(水野)
●両楽器の演奏音域が高低差が余り無いので、いかにもモーツアルトらしい音楽であるが、平坦で地味。
●第二楽章はFgが主導、二つの楽器のアンサンブルはしんみりと癒される響きもあり、地味だが面白い。
●第三楽章で、Fg が時々音をシンコペーション?的に、ポンと音を跳躍させる部分がたびたびあり、実に面白い。
⑤演奏者(Vn 岡本、大江 Va 有田、長田 Vc水野、香月 Cb大槻)
●メタモルファーゼとは、通常“変容”の意だが、次々と主題がしだいに変わっていく曲をイメージ。R.シュトラウスが戦後瓦礫の山となった都市の変化無常観を表現したとも謂う。
●冒頭Vn を休止させて、重厚な響きの5重奏からスタート、第1Vaが主題を表現。
●Vnも加わり、濃厚なアンサンブルを演じる。Vnの岡本さんは③あたりから本調子となったのか音が冴えて、体を大きくうねらせて気持ち良さそうに演奏していた。ベースの音がずっしりと腹に伝わる、生演奏の本領を実感。各楽器が少しずつ変化するメロディ(フーガとは異なる)を奏でるのを聴きながら、滔々とした大河が流れ、最後は河口に達して静かに流れを止める姿をイメージしていた。例えばドナウベントの水量が多くて川幅の広い悠々とした流れを。
③演奏者(特別出演Vc 宮田大 Pf 反田、Vn岡本)
●今日前半の演奏でこの曲のみが全曲演奏され、演奏者の意気込みを感じました。聴いた中では、一番のハイライト。出来も大変良かった。素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれた部分が多くありました。
【第一楽章】
●チェロの出だしの音を聴いて、非常に優れた演奏者であることがすぐ分かる。
●当初、Vnの音が今一つという感じを受けたが次第に良くなり、非常に良く鳴らす箇所が散見される様になってきた。
【第二楽章】
●Vc⇒Pf⇒Vn と主題がフーガ的に続く部分、絶妙。Vnの音が見違える様に冴えて来て、奏者は髪を乱しながらがっしりした体躯から力一杯音を繰り出していた。
●Pfが鍵盤上をアルペジョ的に上下又上昇させる個所の表現は少し弱く感じた。
【第三楽章】
●アンサンブルが最高に息があっていた。Pfが伴奏的でVcの独奏的部分が素晴らしい。
【第四楽章】
●Vcの響きが心地良い。VnはVcとの掛け合いで、触発されたが如く良い響きを醸し出していた。Pfはまずまず、少し地味かな?これまで他で聴いたブラームスの三重奏曲は、あたかもピアノのためのソナタをVnとVcが側面支援しているが如くピアノが活躍する曲が多かったが、この曲はブラームスがピアノに活躍の場を余り与えていないのか?
この曲の演奏が全演奏を聴いた後も今日の峠感を強めました。
総じて、今日出演の演奏家はゲストを含めすべて初めて聴く人達でした(テレビ朝日≪反田恭平の音楽会≫でちらと見たことは有りますが、ほとんど気が向きませんでした。宮田さんの名前はあちこちで聞こえましたが、これまで聴きに行く機会がなかった)。全て若手の音楽家たちで、主宰する反田さんも若干25歳、まだまだ粗削りの処もあります
が、今後が楽しみです。
尚、少々気になったことは、トークで反田(25歳)さんが宮田(34歳)さんを君呼ばわりしたことです。若干のおごりを感じた。十歳位年上のしかも大学(桐朋)の先輩で、数々の実績を挙げている実力者ですから、いくらマスコミの売れっ子であっても、公衆の面前では敬愛の態度を忘れないで欲しいものです。
今後の成長の阻害とならないためにも。
それはそれとして、この様な演奏会の形態は、音楽界において素晴らしい新しい生活様式の発明とも言えると思いますし、早急なコロナ禍の終息が無い限り、今後益々主流を歩む確度は高いのではなかろうか。
反田さんは、演奏家としてもプロモーターとしても才能の素晴らしい人だと思います。