新百合ヶ丘の川崎市アートセンターにある「アルテリア・シネマ」で上記ドキュメンタリー映画を上映していると聞きつけ、見に行ってきました。
上映は間もなく終了に近づいているので、19:15からという遅い時間帯になっています。コロナ感染が増えつつある今日、電車に乗っても満員電車を避けられるし、事前に電話で訊いたら観客は非常に少ないということなので、好都合と思い出掛けたのでした(2020.7.12.まで)。観客は7名のみでした。
この映画の主人公はホセ・ムヒカ 第40代ウルグアイ大統領です。彼は今85歳、引退して最貧民の援助活動を自費で行う活動をしているのです。
ムヒカ(愛称ペペ)は若くして当時の軍事政権に対する反政府運動に身を投じ、投獄されること数多く、ゲリラ的活動もして何回も命の危機に晒らされたのですが、乗り切って生き延びてきました。
結婚後13年間も投獄されて、妻ルシア・トポランスキーと離ればなれになっても、二人の愛は変わらず、“人は苦痛や逆境から多くを学ぶ”と達観しています。遂には独裁政権が倒れ、民衆の絶大な支持を得て 2010年に大統領に選出されたのでした。
“世界には大統領になると赤絨毯を敷くとか贅沢なことをする人もいるが、私は、貧しい人が選んでくれた大統領だから、彼らと同じ生活をしなければならない。”
世界の大富豪の様に800億ドル持っていたらどうするか?と問うインタヴュアー(エミール・クストリッツァ監督)に対し、“騙されない様に必死に警戒するだろう。それを心配するだけの人生だ”とユーモラスに苦笑いしながら答える。“人類に必要なのは、命を愛するための投資だ”、“サハラ砂漠の真ん中には大量の塩水が必要だ。~ 新しい川も必要だ。シベリア北部の氷でアジアの乾燥地帯にのみ水を引く。アラスカの氷でロッキーのふもとに川を作りメキシコ北部まで流す。全人類のためになる活動は山ほどある。”と壮大な考えも抱いている。が大統領となった彼は大きな壁にぶつかります。国民の圧倒的な支持の熱気がしだいに薄れ、映画を観る限り「国を運営するのは、非常に難しい。社会主義を目指した国民が資本主義に寝返った」という発言からも落胆の気持ちが伝わって来ました。経済が仲々回復できないことも大きく影響したのでしょうか?ムヒカは2015年に退任します。
退任後2016年に来日、ムヒカの目には日本人は働きすぎだと映った様です。
映画では、“(私の)人生も終盤だ。もうお金は必要ない。”と収入(年金か?)の大半を貧しい人々に寄付、住む家もない最貧の人々のために、家を建てる取り組みを皆で協力して行っている様子を映し、その家の中で、雷雨があっても「もう濡れることは無い、ペペのお陰だ」と呟く家族の姿が印象的でした。
2012年にはブラジルで開催された国連の「持続可能な開発会議」に出席、その演説で、“今の発展を続けることが本当に豊かなのでしょうか”と先進国を先頭とする物質的志向の蔓延に疑問を呈し、“貧しい人とは、少ししかものをもっていない人ではなく、もっともっといくらあっても満足しない人のことだ”と、いにしえの賢人たち(セネカ他)の言葉を引用して言います。“真に豊かとは何か?真に幸福とは何か?”全世界がその問題の再考を突き付けられたといえます。
しかし物質的豊かさの生活にまみれた我々資本主義社会の人々が、頭ではムヒカさんの思想に共感出来ても、実際に実行するのは非常に難しいのではなかろうか?
『恒産なくして恒心あるは 唯士のみ能くす』
という孟子の言葉を思い出します。
もう一点忘れてならないことは、これまで数々の艱難辛苦を乗り越えて来られたのも、妻ルシアさんとの愛があってのことでした。
映画の最後の場面で、居酒屋で歌うタンゴ歌手の歌に合わせて、テーブルでチビチビやりながら二人肩を寄り添って、つぶやく様に大好きな歌を口ずさむムヒカとルシアの姿が大変印象的でした。
ところでここ一週間、首都圏就中東京のコロナ感染者数がうなぎ上りに増えています。音楽会も正常な形態には程遠いですが、やっと再開され始めたばかりなのに、このままでは第二波の蔓延が怖いですね。
その関係かどうか分かりませんが、今日新たにメールで、9月の『ストラディヴァリウス コンサート2020(サントリーホール)』の中止の連絡が入りました。ストバリといっても色々な音色のものがあるので、同時に聴き分けできるいい機会だと楽しみにしていたのですが残念です。
今後幾つかの音楽会を聴きに行く予定が目白押しなので影響がなければよいのですが。特に7/18の反田さん達のコンサート(朝日ホール)は宮田さんも急遽出演するらしいので、期待して聴きに行こうと思っていますので。